第5章 〜未来から来た姫君〜
『ごめんなさい・・お、お二人のやりとりが
子供みたいで・・可愛くなってしまって・・』
と、肩を揺らしながら、やっと話
また壺に嵌ったように笑う。
二人は(////めっちゃ可愛い////)と
見惚れて、時間は止まったまま。
ひとしきり、笑っていた雪姫。
二人がとても、緩んだ顔で自分を
見ていることに、ハッとし、
『ぅんっ、んっ』と咳払いを一つして
『はしたないところを、お見せして
申し訳ございません』と、謝った。
『はぁ、でも声をあげて、笑ったのは
何年ぶりでしょうか』と、時を遡り
考えてみたが、そんな記憶など
全くなかった事に自分で改めて驚き
不意に、顔を曇らせる雪姫。
『雪姫さん?』と表情が雲った事に
気づき、声をかける栞。
『あっ、ごめんなさい、思い出そうと
したけれど、ちょっと思い出せません
でしたわ』と雪姫。
それに反応したのは家康。
『えっ?』と言う顔で
雪姫を見た。
(はっ?思い出せないってなんだよ
声上げて笑うなんて女なら
普通に毎日あるだろ。
もしかして、笑わないんじゃなくて
笑えないのか?)
そして、家康の脳裏に、決して忘れられない
深く深く傷ついた<あの日>が蘇る
桜奈を失ったあの日。
胸を抉り取られるような痛みに
半身を引き裂かれるような痛みに
髪を掻き毟り、声の限り
涙が枯れるほど泣いたあの日。
<ズキンッ!!>今、思い出しても
胸に痛みを感じる、耐え難い思い。
みるみる、家康の眉間に深いシワがよる。
(まさか!あんな思いをあんたもした?
だから、頑なに心を見せないのか?)
と家康は雪姫が笑えなくなった
理由を知りたくなった。
急に、黙りこむ家康に
『家康様?』と雪姫に声をかけられ
ハッと我に返った。
『あっ、いや子供頃とかも
覚えてないわけ?』
家康は、雪姫の事がもっと知りたくて
わざとそんな質問をした。
すると、『あっ、もしかして、家康様は
まだ、ご存知なかったですか?
私、十より前の記憶がありませんの
十の頃に、信長様に命を助けて頂き
それからの記憶しかないんですが
それからは、もともとなのか
無表情で冷たい感じの子だったみたいで
雪のようだからと『雪姫』って名を頂きましの。
他の皆様は、ご存知のはずですよ・・・』
その衝撃的な、告白に
家康も栞も絶句した。