第5章 〜未来から来た姫君〜
すると、雪姫が
『信長様、お戯れが過ぎますよ!!
栞様がお気の毒では、ごさいませぬか。』
と、初めてきいた、雪姫の厳しい声。
『ほんと、揶揄い過ぎ』と家康
(戯れ?揶揄い?)栞は
へっ?と間の抜けた顔になると
それを見た信長が、辛抱堪らんと
いうように肩を揺らし
クックックと笑い出した。
栞は、キョトンとしたまま雪姫の方を見た。
すると、雪姫は側によってきて
栞の涙を優しく拭い、肩を抱き寄せ
抱きしめてくれた。
『怖かったですよね。お気の毒に。
今のは、信長様のお戯れですから
気になさらずとも良いのですよ』
と優しく背中をさすってくれた。
(戯れって、冗談ってこと、揶揄われて
ただけだったの?私)
本気で、殺されると思い込んでいた
栞は、だんだん腹が立ってきて
一瞬、信長をキッと睨んだ。
信長は(ほぉ〜、怒った顔もなかなか・・)と
また、口角をほんの少しだけあげ
上から見下ろし、ニヤリとする。
栞は、揶揄われただけと言うことに
やっと納得し、心底ホッとすると
今度は安堵の涙が、出て止まらなくなった。
(本気で、怖かった、本気で死ぬかと思った)
そう思うと、雪姫にすがり
泣きじゃくりはじめた。
『本気で、ヒック・・怖か・ヒック・・った
びっ・・く・り・ヒック・・した』と
子供のように、しゃくりあげている。
(これのどこか刺客に見えたんだ?
秀吉さんの心配症も病気だな。)と
呆れていた家康だったが
『後は任せたぞ、家康』と言って
信長は、ニヤリとしながら
部屋から出ていった。
信長が出て行った方向を見つめ
『ハッー』とため息をつき
(散々、揶揄って遊んだあげく後は
俺に、丸投げかよ。こんな
ビービー泣いてんのに)と
めんどくさそうな家康。
そして、気を取り直すように
栞に『あんた、ちょっといい』と声をかける。
『俺、医者だから、信長様にあんたを
診ておくようにって言われてんの』
と言うと、
雪姫が、『栞様、今日はちょっと
お戯れが、過ぎたようですが
信長様は、本当はとてもお優しい
方なのですよ。命の恩人を無碍に
するような方では、決してござい
ませぬ、この雪姫が保証いたします』と
雪姫が信長を褒めると
ーー雪姫様は、信長様の正室候補との
専らの噂ーーと言う、噂話を不意に
思い出した家康は、胸がチクリとした。