第5章 〜未来から来た姫君〜
栞が口から吹き出したお茶が
ミスト状になって、信長と家康の
頭に降り注ぐ。
その光景が、栞にはまるで
スローモーションのように見えた。
(えっ?えーーーーー!!!
お殿様にお茶吹きかけたなんて
そんな、無礼をしたら、時代劇だと
確実に、その場で切られるか、
打ち首で死罪だよね。
しかも、相手は、織田信長。
あの、短気で無慈悲なあの信長。
でもって、ここは時代劇なんかじゃない
たぶん本物の戦国時代。
あー、なんて事したの私。
このまま、この場で切られるかも
どうしよう!どーしよー!!)
一瞬のうちに、自分の犯した失態が
命取りになり兼ねない事だと想像を
巡らせどんどん血の気が失せ
震えさえ出始めた。
『も、も、申し訳、ありません!!
どうか、命ばかりは、お助けをーー!』
時代劇まんまの台詞を言って土下座した。
そのまま恐怖のあまり、顔をあげられなくなった。
一方、これは大変と、手縫いを出し
信長にかかったお茶を拭こうと
近寄った雪姫。
要らぬと言うように信長は、
手のひらで顔を拭った。
それならばと、家康の方へ行き
顔を拭こうと、手縫いを顔に
近づけると、雪姫はパッとその手を
掴まれ、家康と雪姫の目が合う。
(///// !!! /////)
お互い、目を見開き、同時に
みるみる顔が赤くなり、鼓動が
高鳴り、咄嗟に視線を逸らす。
『自分でやるから、いい』と家康
『分かりました』と雪姫
お互い、顔を背けたまま、会話する。
二人のその様子を横目で見ていたのは、
信長だけ。(此奴らも、だいぶお互いを
意識し始めたな・・・)とニヤリ。
栞は、未だ恐怖で顔を上げられない。
そんな栞の顔を上げさせ、顎をクイッと
持ち上げた信長は、鋭い視線をむけ
『貴様、わしに対する、この無礼
どう責任をとるつもりだ
死して償うか!』と栞を睨んだ
栞は、怖くてガタガタ震え
涙を流し始めた。
『ご、ごめん・・なさい、わざと・・
じゃ・・ないです・・俺の女・に
なれ・・なんて・言われ・た・こと・』
もう、それ以上は、何も言えなかった。
(私の人生終わるんだ・・
夢、叶えたかったな・・
パパ・ママ、親不幸な娘で・・ごめんなさい)
色んな事が走馬灯のように流れた。
そして、何かを観念したように栞は、
目を瞑った。涙は、後から後から
栞の頬を止めどなく伝った。