第5章 〜未来から来た姫君〜
雪姫に用意してもらった昼餉を
食べ終え、『ご馳走様でした』と
手を合わせると、雪姫は、御膳を下げ
脇に置き、お茶をお入れいたしますね
と、準備しようとした時
『雪姫、おるか?入るぞ』と
襖の向こうに、二つの人影が見えた。
『信長様?どうぞ、お入り下さい』と
言うと、襖がサッと開いた。
横で、頭を下げている雪姫に気づき
慌てて栞も、『色々と、お世話に
なりまして、ありがとうございました。』
と言って正座して頭を下げようとした。
すると信長は、
『畏まらずとも、そのままでよい!』と
栞に言った。
栞は、元の姿勢に戻り、ペコッと一礼した。
信長と一緒に入ってきた男は、辛子色の
羽織を羽織った、無愛想な人だった。
『信長様、家康様、栞様、今お茶を
お入れ致しますね』と雪姫。
家康と言う名を聞いて
(へっー!この人があの徳川家康なんだー)
と、もはや、どの歴史上の人物が
目の前に現れても、驚かなくなっていた
栞。
じっと、見ているつもりは、なかったのに
ムッとしたように『何、なんか俺の
顔についてる』と
雪姫と同じ台詞なのに
雪姫とは、月とスッポンぐらいな
可愛げのなさ。
『いえ。別に』と視線を逸らした。
『さぁ、お茶がはいりましたので
どうぞ』と、信長と家康の前に
お茶を置き
『はい、栞様もどうぞ、熱いので
お気をつけ下さいね』と、雪姫は
そっと湯飲みを手渡してくれた。
『ありがとう、雪姫さん』と言って
お茶を受け取ると栞は、湯飲みを
見つめながら、手にじんわり
伝わる温もりに(あったかーい)と
ほんわかする気分になった。
その栞の仕草が、信長と雪姫には
まるで小さな雛鳥でもそっと
手で包みこんでいるのではないかと
思うほど優しくて、愛おしそうで
繊細に映った。
すると、突然『貴様、名を栞と申すのか?』
と信長様が聞いてきたので、
栞は、『あっ、はい、栞と言います』
と答え、信長様の方を見ながら
お茶を一口だけ口に含んだ。
飲み込もうとしていた瞬間
『貴様、わしの女になる気はないか』
と、言った事に
『!!!!』
栞は、驚きのあまり『ブッーーーー』と
お茶を盛大に吹き出してしまった。