第1章 〜初恋〜
それから、傷口からばい菌が
入ってはいけないからと
竹千代は洗い場へと桜奈を背負い
連れて行った。
自分の手縫いを濡らし、擦りむいた桜奈の
手や膝にそっとあて、泥や血を拭き取った。
『いっ!』
と痛みを堪え、また涙目になる桜奈を
心配そうに
『痛むか?大事ないか?』
と声をかけながら、優しくそっと
手当てしてくれる竹千代だった。
そして、我慢せずに泣いてもよいと
また、言ってくれる。
竹千代に優しくしてもらい
桜奈は前よりも
もっともっと竹千代を
大好きになっていた。
許婚云々の前に、桜奈にとって
竹千代は『初恋』の相手と
なっていたのだった。
手当てが終わると桜奈は、
ゴシゴシとまた目を擦り涙を拭いた。
そして、ありがとうと、竹千代に
ペコリと頭を下げた。
それから、まっすぐ竹千代をみて
『竹千代さまは、まるで、お医者様
のようでございますね!!』と
尊敬とも、憧れともつかない眼差しを
竹千代に向けたかと思うと
ふわりとした笑顔をみせた。
桜奈のその笑顔と健気な姿が
竹千代にはとても眩しく見えた。
桜奈を他の誰にも取られたくない
自分だけが桜奈を守れる
桜奈にとって特別な存在でいたい。
いつの間にか、そんな気持ちになって
いたのだった。
そして、竹千代は、自分の決意を桜奈に
伝えた。
『桜奈姫様のことは、ぼくがずっと
守ってあげる。もっともっと強い
武将になって、必ず桜奈姫様を
お嫁さんにするからね』と
小さなプロポーズをした。
桜奈は、竹千代が自分を
お嫁さんにしてくれると
約束してくれたことが、堪らなく
嬉しかった。
そして、竹千代の言葉に
『うんっ!!』と
言うと、満面の笑みが溢れた。
竹千代 七歳
桜奈 五歳の春の日。
小さな小さな二人のー初恋ー
二人の恋が、始まった。