第1章 〜初恋〜
二人の様子を廊下の陰からそっと
見守っていた桜奈の父。
父が桜奈に声をかけると
『あっ!ちちうえ!』と
またぴゅっと駆けだそうとした。
竹千代はさっと肩を掴み
『桜奈姫様、また転んだら危ない』
とそっと手首をつかみ父
の元まで連れていった。
そして、自分が遊び相手に
なりながら、転んで怪我を
させてしまったことを申し訳
なさそうに謝った。
一方、桜奈は、身振り手振りで
鬼ごっこで転んでしまったけど
泣かずに、ちちうえとの約束を
守ったと。竹千代様が負ぶって
くれてそっと、擦りむいたところを
手当てをしてくれたからもう
痛くないと。
『それでね、ちちうえ、竹千代様
お医者様みたいだったんだよ!
凄いよね!』
自分が凄い体験をしたかのように
目をキラキラさせながら
父に話して聞かせた。
そうか、そうかと、桜奈の話を
相槌をうちながら、真剣に聞く
桜奈の父
まだ、申し訳なさそうに
俯いたままの竹千代に向かい
『竹千代殿。
桜奈を助けて手当てまで
して頂き、かたじけない』
と頭を下げた。
いや、そんなと言う表情の竹千代。
そして、桜奈に向かい
『桜奈の旦那様になられるお人が
優しいお方で良かったのう』
と桜奈を抱き上げた。
そう父に言われた桜奈は
満面の笑みと、天も届きそうな
ひときわ大きな声で『うん!』
といって頷いた。
桜奈の張りのある大きな声に
驚き、竹千代は、桜奈を見上げ
少し、照れたように微笑んだの
だった。
桜奈の父は、見上げた
竹千代の頭をそっと撫で、
(不遇な環境に置かれながら、いや
だからこそ、人の心の痛みに気づける
優しさを持っている。
竹千代殿どうか、その優しさゆえに
己を責め、自らを傷つけないで欲しい。
どうか、人にも自らにも、優しく在れる
強さを見つけて欲しい。)
と心の中でそっと願うのだった。