第1章 〜初恋〜
しばらく、鬼ごっこをしていた竹千代と桜奈
走り疲れたのか、不意に小石に躓き
桜奈は、派手に転んでしまった。
すぐさま竹千代が『桜奈姫様!!』
と一目散に駆け寄ってきた。
そっと抱き起こすと、竹千代は
『大事ないか?』と声かけながら
着物に着いた土を払ってやった。
土を払いながら、どこか痛めていないか
怪我はないかと確認したのだった。
どうやら手と膝を、少し擦りむいて
しまったようで、擦りむいたところから
うっすらと血が滲んでいる。
転んでビックリしたし
擦りむいたところもジンジン
ズキズキと痛かった。
『うぅっ・・う』と桜奈は
小さく呻めき声をあげ
同時に、桜奈の大きな目には
みるみる涙が溜まっていくのが分かった。
今にも声を上げてわんわんと泣きだし
そうな桜奈。
けれど、なかなか泣き出さない。
よくみると、わなわなと肩を
震わせながら、泣くのをグッと
堪えているようにみえた。
竹千代は、心配そうに桜奈を
覗き込み、痛いのだから我慢せず
泣いてよいと告げたのだが
桜奈はブンブンと首を横に振り
『・・・ちちうえさまが、桜奈は
竹千代さまの・・お嫁さんになる
のだから・・強くあらねばならない
強くなって・・竹千代さまを支えて
行かねばならない・・だから辛くても
簡単に泣いてはならぬと申された』
と、溢れそうになった涙を
手の甲でゴシゴシ拭いたのだった。
それから
『だから桜奈は、
竹千代さまのお嫁さんになる為にも
泣かないと決めておるのです!』
と言うと真っ直ぐな目で竹千代を見つめた。
幼い頃から泣き虫だった桜奈。
父にそう教えられてきた。
何より、そんなに泣き虫では
竹千代殿に嫌われてしまうぞと言われ、
そう言われた日から、滅多に泣かない子に
なっていたのだ。
竹千代は、まっすぐな目にハッとし
桜奈の目を見つめ返した。
自分より幼い、桜奈の中に凛とした
強さを見たような気がしたのだった。
まだ小さくて、妹のようだと思っていた
桜奈への気持ちが、何か別の想いに
変わって行くような気がした。