第5章 〜未来から来た姫君〜
『す、すみません、ご迷惑をおかけして』
と、申し訳なさそうに謝る栞。
『どうぞ、お気になさらず、今は
ゆっくりお身体をお休めになって下さい』
雪姫は、優しい声でそう言ってくれた。
その優しい声に、栞の緊張は一気に解けた。
『私の名前は、栞と言います。』
と名乗った。
(けれど、それ以上何を話せる?
五百年後の未来から、来たって
言っても信じてはもらえない。
自分だって信じられないのに・・・
何で自分が、この世界にきたのか
これからどうすればいいのか、
どうやったら、元の世界に帰れるのか)
緊張は解けたものの、替わりに
居た堪れない不安がどっと
押し寄せ、涙が溢れてきた。
名乗った後、押し黙ったまま
ポロポロと涙を流し始めた栞。
雪姫は、無表情のままだが
栞のその心情を掬い上げるように
『栞様、さぞお辛い思いを
されたのですね、おいたわしい』
『私で、お力になれることが
ございましたら、遠慮なく
おっしゃって下さいね』
と言って、栞の涙をそっと拭い
手をぎゅっと握ってくれた。
(ああ、そうか、雪姫さん
優しい言葉をかけてくれるのに
言葉と表情が合わないから
違和感を感じたのか。
でも、雪姫さんは、きっと凄く優しい人だ。
雪姫さんの声にその優しさが滲みでてる
気がする。声をかけて貰うたびに
なんか、とっても安心する。)
まだまだ、混乱で頭がぐるぐるする。
考えなければならないことが、山ほどある。
でも、握られた手の温もりと
優しい声と優しい空気。
ほんわかした気持ちと安堵感が
栞の瞼を重くする。
『さぁ、栞様、今暫く眠って
お身体お休めになって下さい
私は、お側におりますから
安心して眠って下さい』
と雪姫が言い終える前に
栞は、スッと眠りに落ちていった。