第1章 〜初恋〜
『竹千代さま、今日は何をして
遊びまするか?』と桜奈
『桜奈姫様のしたい遊びをしよう』
と答える竹千代。
『では、鬼ごっこがようございます。
竹千代さまが、鬼ね!』と言い終わるや
否や、一目散に駆け出した。
『それは、狡いですよ、桜奈姫様〜!』
と桜奈を追いかけた。
キャッキャと逃げ回る桜奈。
捕まえようと思えば、すぐに
捕まえられるのに、あやすように
『待て、待て〜』と
追いかける竹千代。
本気で追いかければ桜奈が夢中で
逃げるあまり転んでしまうかも
知れない。
かと言って、ダラダラと追いかけ
られても、手を抜かれている
ようで楽しくない。
そんなさりげない
竹千代の思いやりに気づき
楽しいそうに遊ぶ二人を
桜奈の父は、目を細め眺めていた。
同じく、竹千代との桜奈の様子を
目にしていた男が桜奈の父の
方へ向かってくるのが見えた。
日頃からの桜奈の父の才覚を妬み
桜奈の父を疎ましく思っていた
今川家の家老である。
桜奈の父は、家老に一礼し
通り過ぎようとした。
すると家老はすれ違いざまに
『姫君と竹千代殿は、仲が宜しく
微笑ましいですなぁ』
と突然声をかけてきた。
桜奈の父は、『はい、お陰様で』と
軽く一礼した。
家老は人を小馬鹿にするような
薄ら笑いを浮かべ
『いや、いや、この先もずっと
今川を崇め、尽くして頂かなければならない
家同士の婚姻ですから、とてもとても
お似合いかと』と、ふっと鼻で笑い
去って行った。
桜奈の父は、一瞬、眉をひそめたが
何ごともなかったように家老とは
反対方向へと歩きだした。