第1章 〜初恋〜
齢3歳で母から引き離されお家を
守る為の人質として差し出された
小さな命
年端もいかぬ幼子に大人の事情など
分かる訳もない。
母に逢いたい恋しさと
父が迎えに来てくれる
そんな、淡い期待を抱いてみても
歳を重ねるごとに、やがて
それは叶わぬ夢と知る。
肩身の狭い日々
屈辱と理不尽に
胸が軋むような日々
竹千代(後の徳川家康)は
そんな幼少期を過ごしていたのだった。
そんな竹千代の唯一の心の癒しは
許婚であるの桜奈の存在。
初めての出会いは
竹千代 五歳
桜奈 三歳
『お初に、お目にかかります。
私は上杉家当主、上杉鷹山と申します。
これは、この度竹千代殿の許婚と
なりました娘の桜奈にございます。
どうぞお見知りおきの程
宜しくお願いします。』
丁寧に頭を下げる桜奈の父。
『さぁ、桜奈、竹千代殿に
ご挨拶なさい』と促され
『桜奈、でしゅ』と両手をついて
ペコっとお辞儀。
そして顔を上げると、愛くるしい
満面の笑みを竹千代に向けた。
一瞬、花が咲いたように見え
その笑顔に見入ってしまった竹千代。
(小ちゃくて可愛いお花みたいだ子だ)
許嫁の深い意味はまだわからなかった。
けれど竹千代にとって、まるで妹が
できたようで嬉しかった。
桜奈といると、閉ざしていた
心に温もりがさすのを感じた。
続いて、竹千代も
『竹千代にございます。
鷹山殿、桜奈姫様、宜しく
お願い申し上げます』と挨拶。
一年にほんの数回しか会うことは
叶わなかったが、会う度に幼い二人は
心の距離を縮めていくのだった。
ある日のこと、
桜奈を連れ竹千代に会いにきた
桜奈の父。
桜奈を見つけ駆け寄ってきた
竹千代は、桜奈と桜奈の父に挨拶した。
大好きな竹千代に会えた桜奈は
『ちちうえ、竹千代さまと
遊んできても宜しいか?』と父に尋ねる。
桜奈の父は、
『竹千代殿、桜奈のお守りを
お願いできまするか?』
と問うと竹千代は、はにかみながら
こくっと頷いた。
桜奈は嬉しそうに満面の
笑みを浮かべ、竹千代の手を
ギュっと握るとぐいぐい引っ張る
ように庭へとかけて行った。