第14章 〜運命の赤い糸〜
捕らわれた顕如の前に現れた信長。
上から冷ややかに見下ろす信長に
顕如は
『まさか、お前に温情をかけられるとは
思わなかった』と眉を潜め不本意な
表情をした。
『温情?そんなものかけた覚えはない
少しでも、戦力を削ぐ策を取った
までのこと。所詮は烏合の集に過ぎないからの』
『ふっ、それでも構わん。
わしが居なくなったところで
首がすげ替えられたに過ぎない
いつか不満はまた膨れ上がる』と顕如。
『そうであろうな、そしてまた
貴様の様に情の深すぎる男が
民の思いに抗えず、流され担がれた挙句
膨れ上がった情念に飲み込まれる。
それが貴様の言う民を救うと言うこと
になるのだろう?』
『わしにその器が無かったに過ぎぬ
だが、乱世の世が続く限り憎しみの
連鎖は延々と繰り返される
憎しみの色を濃くしてな』
『このままであればな。ただ
今の憎しみなら貴様も歯止めを
かけられるのではないか?
貴様の意であれば、いきり立つ者の心を
鎮められるであろう?
貴様一人に全ての咎を背負って
もらうことも可能だが?』と信長。
『また、このわしに情けをかけると
いうのか!』険しい顔をする顕如。
『くどい、貴様がどう思おうと
知ったことではない!戦えば敵味方関係なく
血は流れる。失うのは、わしの手駒とて
同じ。お前の意思一つで刀など使わずとも
戦意を削げるなら、これ以上の明案が
あるか?まぁ、嫌だと言うなら
捕まえた者以外に、この戦に加担した者を
全て探し出し悉く罰するまでだがな。』と
ゾッとする笑みで顕如を見下ろす。
『くっ』と苦々しい表情をする顕如。
『分かった。書状を書こう。わし一人が
全ての咎を背負う。その話、違えるな』
『いいだろう、歯向かう者は
容赦はしないがな』と言うと信長は
顕如を師事する者達への書状を持たせ
一向宗達の縄を解き解放した。
残るは、今川の残党。信長は、家康を呼び
『こやつらの処遇は、貴様に任せる』
とだけ言った。
家康は、桜奈を思った。
(こいつらのせいで、鷹山殿も
桜奈の母君も死んだ。
桜奈も愛する人全てを失って
心を閉ざし、どれだけ苦しんだか。
俺も散々踏み躙られた)と思うと
やり切れない怒りに握った拳が
わなわなと震えた。
(やはり、許せぬか)と思いながら
信長は家康を見つめていた。