第2章 〜突然の別れ〜
しかし、時既に遅く、上杉城は
燃え盛る炎に包まれていた。
『くっ、間に合わなんだか』
そう言って、信長は奥歯を
ギリリっと噛み締めた。
その表情は、まさに
鬼と呼ぶに相応しい
恐ろしい形相だった。
燃え上がる城から視線を
もどすと、こちらに向かい
丘を上がってくる数人の人影。
『いたぞー!こっちだー
一人たりとも生きて逃すなー』と
それに続くように松明の灯りが
ゆらゆらと、追いかけてくる。
遠くで、シャキーン、シャキーンと
刀のぶつかり合う音。
『千草殿、急がれよ
必ず姫様をお守りするのだ!!』
姫様と言い声を聞いた信長は
馬を蹴り、人影に向かい走りだした。
やっと人影の輪郭がはっきり
してきた瞬間、幼子が躓き転んで
しまった。追っては直ぐ後ろに
迫っていた。
とっさに幼子を抱えるように
丸くなった女は、背後を斬りつけられた。
『うぅっっっ』
『千草ー!!』幼子がそう叫んだ瞬間
風のように何かが通り抜けた。
再び刀を振り上げ女にとどめを刺そうと
していた男がドサッと倒れた。
光秀、秀吉は、信長を通りすぎ
次から次へと登ってくる
今川の兵をなぎ倒していった。
信長は、馬から降り女のもとに駆け寄ると
『女、貴様、上杉城のものか』と訪ねた。
背中からドクドクと流れる血は
胸の下に匿われた桜奈の着物も
染み込んでいき、真っ赤に染まった。
その生温かさが桜奈にも伝わり
桜奈は血の気のない、強張った表情で
ガクガクと震えていた。
女は、息も絶え絶えな状態で
『はぁ・・どなたかは・・はぁっ・
存じませぬが姫様を、桜奈・・
姫様をはぁ・・おた・・すけ・・』ガクッ。
そう言って事切れた。
千草の胸の中でガクガク震えていた
桜奈は、千草の声が聞こえなくなり
ズッシリと重みを感じ、確かめる為に慌てて
千草の胸から這い出ると、『千草!千草!』
と亡骸を揺さぶる。
そして、何が起こっているのか
理解したくないように『いややぁぁーー!』
と悲痛な叫び声を上げ意識を失った。
桜奈を抱き上げ、素早く馬に乗ると
『退けーー』と声を上げ、信長の
後を追いかけるように、光秀、秀吉も
後に続いた。