第2章 〜突然の別れ〜
城内の様子で、これから起こることを
悟った竹千代は自室で爪が
食い込む程手を握り締め
唇を強く噛み締めていた。
握り締めていた手の甲に
唇から、ポタリと血が落ちた。
心の中ではただただ、
桜奈と、桜奈の父の
無事を、祈る事しか出来ない。
側に行って、力になってやることも
守ってやることもできない
己の無力さに自らを責め、憤っていた。
そして、義元と、鷹山を策に嵌めた
家老達に対する憎しみがより一層
増すばかりだった。
(俺は、鷹山殿の何の力にもなれない。
桜奈を、守ると誓ったのに、
なのに、なのに何故、俺はこんなも弱い!!)と
溢れる涙と、唇からしたたった血が
手の甲で混ざり合い、滲むばかりだった。
夕暮れ近くに、安土城に届けられた
鷹山からの一通の文。
その文に信長は目を通していた。
敵である信長殿に、このような不躾な
願いを申し出る無礼をお許し下さいと
書き出されたその文には、
今川家臣の策に嵌り、上杉家は
滅ぶことになるだろうと。
しかし、民を顧みぬ義元に
一矢報いる為、討ち死に覚悟で
あること。
ただ、気がかりなのは、一人娘の
桜奈のこと、竹千代殿の許嫁として
きっとこの先、竹千代殿を支え
信長殿のお役に立てる日が来ると
信じている。
だから娘の身を信長殿に預けたいと。
そんな内容が、綴られていた。
内偵から戻った光秀からも、
義元が、間も無く上杉城に進軍を始めると
報告を受け、信長自ら上杉城へ
向け出立した。
『光秀、秀吉、参るぞ!』
『はっ』
馬を走らせながら信長は、
(鷹山、死んだら許さぬぞ・・・
貴様には、わしと共にやるべき事がある・・・)
と、心で呟いていた。