第2章 〜突然の別れ〜
ー今少し、時を遡るとー
血のように染まる夕日が
沈みかける頃、桜奈と千草と
数人の兵が、城を出ようとしていた。
泣かないと決めていた桜奈。
しかし、ただならぬ事が
起きている事だけは理解し
恐怖と不安で涙が止めどなく溢れてしまう。
『さっ、姫様、急がねばなりませぬ』
と千草に手を引かれるが『いやぁぁー』と
言って泣きじゃくっていた。
『父上も母上も共に参らぬのなら
桜奈もお側におるー!』とまた泣きじゃくる。
そんな桜奈を母は、ぎゅっと抱きしめ
『桜奈、母は、父上のお嫁さんゆえ
父上を支え、皆を守らねばなりませぬ
ここは、危ないから良い子だから
千草と一緒に待っていなさいね』
とポロポロと涙を流した。
そして桜奈を抱きしめる母ごと
抱きしめた、桜奈の父もまた
『そうだよ、桜奈。母上は
父の可愛い可愛いお嫁さんゆえ
父は、ずっと母上と共にいたいのじゃ。
桜奈には、竹千代殿がおろう?
竹千代殿のお嫁さんになる桜奈
がいなくなったら、竹千代殿が
悲しむ。大好きな人を悲しませては
ならぬ、だから、父との約束も
忘れてはならぬぞ。
どんなに辛くとも、泣いてはならぬ
大好きな、竹千代殿と、いつもいつも
笑いあって生きていくのじゃぞ』
そう言うと、父は桜奈をキツイほど
ぎゅっと抱きしめた。
それでも、いやだと首を横にふり
泣きじゃくる桜奈を家来達に
『頼む』と預け、すぐ城から
出るように命じた。
抱えられながら、それでも必至に手を
伸ばし『父上〜、母上〜』声の限り叫び
続ける桜奈の声に、母は胸が潰れる
ような痛みに耐えきれず、床に崩れて落ち
止めどなく涙を流した。
そんな妻を抱きしめ『すまぬっ、許せっ』
と桜奈の父。
すると桜奈の母は、涙を拭い
桜奈の父を見つめ
『私が望んだ事でございます。
最後まで殿のお側に いたいのです。
だって、私は、殿の可愛い可愛い
お嫁さんなのですから』と、
涙を流しながら、桜奈そっくりの
顔でそっと微笑んだ。
その後、間も無くして城は
燃える紅葉のような
炎に包まれていったのだった。