第13章 〜君とでなければ〜
一刻も早く、謙信の領内から出る為
馬を走らせたが、二人を乗せて
走る馬にも疲労が出ていた。
途中、馬を休ませるため沢に立ち寄った。
桜奈の緊張は
まだ続いていて、ずっと小刻みに震えて
いる事は、馬に乗りながら感じていた。
『桜奈、大丈夫。俺は、生きてるから』
そう言って桜奈を優しく
抱きしめる家康。
家康の温もりをもっとしっかり
確認するかのように桜奈は家康の背中に
手を回し、抱きしめ返す。
家康の鼓動と温もりに家康を失ったらと言う
先程までの恐怖が少し和らぐ。
そして、自分がわがままを言って戦さ場に
来たせいだと自分を責め始めた。
『ごめんなさい、家康様。
私のせいで、家康様を危険な目に
遭わせてしまいました』と
涙を零した。
家康は、桜奈の涙を拭いながら。
桜奈の顔を上げると
『無茶する桜奈も頑固な桜奈も
いつものことでしょ。
分かってるから、もう謝んなくていい』
そう言ってまた桜奈を抱きしめると
桜奈のおでこに口付けした。
家康も桜奈が、自分の腕の中
にいることを実感し、ホッとしていた。
そして不意に思い出した。
『そい言えば、謙信に口説かれて
なかった?』と聞く家康に
『口説かれた?私がですか?』と
驚いた顔した。
『まさか、そんなことあり得ませんわ。
でも、可笑しな方々でした。
信玄殿も謙信殿も牢につながれてる
私に調度品を競うように、牢に
運ばせたり、俺の女になれと
信長様のような揶揄いをしたり
名を馳せる武将ともなると
ああやって、退屈しのぎを
なさるのでしょうか?』
その、無自覚さに唖然とする
家康だった。
(えっ、それ完全に口説かれてるよね?
まさかとは、思っていたけど
自分の事になると 桜奈って
三成に匹敵する無自覚さなのか?)
『いや、それ、絶対口説かれてるよね』
と、桜奈の無自覚に三成を重ね
少しイラッとする家康。