第13章 〜君とでなければ〜
自分の名ではなく愛する者の名を
力の限り悲痛な声で叫ぶ桜奈に
ほんの一瞬、謙信は気を削がれた。
ほんの一瞬だった。
しかし、その一瞬を見逃さなかった
家康は、直ぐ様謙信の懐に入り
謙信の腹へ刀を真横に滑らせた。
しかし、軍神と呼ばれる程の
謙信は、すんでのところで家康の太刀が
致命傷にならないように身をかわしていた。
だが、腹を切られた、謙信の手から
刀は離れ腹を抱えうずくまる。
そのまま、怒りに任せトドメを
刺そうとした家康は、一瞬桜奈を見た。
桜奈の悲しげな瞳と目が合う。
家康は、謙信のその刀を遠くに蹴り飛ばし
牢の錠を、刀で一撃し壊すと牢の中に
入ると桜奈をきつく抱きしめた。
『無事でよかった』と言うと
『家康様!』と涙を流す桜奈。
そして、すぐさま、桜奈の
手を引き牢の外へ出た。
謙信は、苦悶に満ちた顔で
『待て・・桜奈』と
手を伸ばした。桜奈は
振り返り、その悲しげな瞳に困惑したが
『急いで』と言う、家康の言葉に我に返り
家康と共に走って城外へと出ることが
できた。
外では、佐助と幸村が馬を
用意して待っていた。
『桜奈さん、無事で良かった』
と言う佐助に『佐助様、幸様
何故ここに?』と言うと
『後で、家康に聞けばいいよ。
今は早く馬に乗り、ここから出る
方が先だ』と幸村が言った。
家康と桜奈が馬に乗ると
家康は、佐助に『悪いが、お前の主を
切った。致命傷ではないが、早く
手当てした方がいい』そう言った。
佐助は、珍しく眉をひそめたが
『分かりました。後のことは
気にしないで下さい。さっ、早く
行ってください』と促した。
家康は『じゃ、今度は戦さ場で』と言うと
『ああ、覚悟しとけよ、今度、会ったら
手加減なんかしねぇから』と幸村が言うと
『それ、こっちの台詞』と言い
家康は、馬を蹴り走り出した。