第13章 〜君とでなければ〜
『何?俺の贈り物が受け取れ
ないと言うのか!』
『そう言うことを、言っているのでは
ございませぬ。牢に女を閉じ込めて
おきながら、贅沢をさせようとする
真意が、わからないと申しておるのです』
『何が言いたいのだ!』
『謙信殿は、私を餌と申されました。
餌に、このような調度品など、必要
ないはず。まして、これらを入れ替える
など無駄にも程がございます。
これら一つ一つ、民の年貢によって
得られたものでは、ございませぬか。
民の汗水を餌の為に新調する意味が
分からないと申しておるのです。』
『お前、変わった女子よの
信長の女であれば、贅沢三昧な
生活をしているであろうに』
『それから、謙信殿ともあろうお方が
どこで、そんな偽の情報を掴まされたか
存じあげませんが、私は、信長様の
正室候補でもなければ、ましてや
愛妾などでもございません。
私を餌にしたところで、信長様が
動く事など断じてございません』と
キッパリと言い放った。
『嘘を申すでない!』
『嘘などではございません。私は
徳川家康様の許嫁にございますゆえ。』
『何?あの三河の生意気小僧の
許嫁だと?』
『はい。幼き頃よりの許嫁に
ございます。ですので、私ごときの
為に信長様、御自ら出て参ること
などあり得ません。
先だっても、私を正室候補と
何者かに入れ知恵された輩が今の
謙信殿と同じように、私を拐かそう
と致しました。
しかし、信長様がお出になることは
ございませんでしたよ。』
『まぁ、良い、嘘までついて
信長を庇おうなどと健気ではないか。
もしその話が本当ならば、お前に餌と
しての価値はないゆえ、切って捨てる
までのこと』
『どうぞ、お好きになさって
下さい。私如きの為に、信長様
ましてや、家康様を危険に
晒すような事があれば、切られずとも
この身の始末など、自分でどうとでも
する覚悟は、できておりますゆえ。』
そう言って、凍てつく冷気を放ち
ながら、その瞳に揺るがない意志を
宿した眼差しで謙信を見据えた。
謙信は、その放たれる冷気に
ゾクッとする感覚を覚えた。
(こやつが、言っていた俺と
同じ場所にいたという話は嘘では
ないかも知れぬ。俺と似ているが
だが、やはり何かが違う)