第13章 〜君とでなければ〜
『くっ、生意気な女。まぁよい
信長が釣られて出てくるまで
お前は、餌として生かして
おかねば、余興は盛り上がらぬでな』
そう言うと、家臣に
『この女を牢に閉じ込めておけ!』と
命令し、桜奈は、牢へと繋がれた。
その一部始終を息を潜め
聞いていた、佐助と幸。
すぐに、その場を離れた。
『ちょっと、謙信様の様子が
おかしいと、思ったらこれだ。
全く、困ったお人だ。』
『どうすんだよ、捕まったの
桜奈だろ?お前の主は
頭おかしいぞ!』
『幸、それはいい過ぎだ。とにかく
何とか家康公に知らせ、助け出して
貰わねば。』
『はっ、畜生、俺らが逃す訳に
行かないしな、悔しいが、家康に
頼むしかねぇか?』
『悔しい?』佐助の顔が一瞬怪訝になる
『な、なんでもねぇよ、とにかくほら
急ぐぞ!』
そう言って二人は、戦さ場へと
向かった。
次の日の、昼近く
一本の文矢が、家康の本陣に
打ち込まれた。
『家康様!大変でございます。
今しがたこれが、打ち込まれました。』
家臣に手渡された、文矢を開けると
そこには、桜奈の一房の髪と
家康が送った簪が包まれ
『信長の女は、預かった。返して
欲しくば、信長が春日山城まで来い。』
と書かれてあった。
『くっ、桜奈』と
眉間に深いシワを寄せ、怒りに打ち震える
家康。
既に到着していた、信長は、
『ここは、わしが指揮する。貴様は
必ず桜奈を連れもどせ
失敗は、許さぬよいな!』
『はい。言われるまでもありません。
必ず桜奈を無事に取り戻してきます。』
そう言うと、信長に深々と一礼した。
家康は、一人春日山城へと向かう
準備をし、戦況の引き継ぎを
三成に済ませ、一人で出発した。
栞は、ただただ桜奈の無事を
祈りながら、もう時間がない自分に
今、やれることに没頭した。