第2章 〜突然の別れ〜
桜奈の不安を察した母は、
『桜奈、ここにいては
邪魔になりますゆえ、お部屋で
千草と一緒に恋文のお返事を
書いてきなさい』と言い
乳母であり教育係でもある
千草に目配せすると、千草も
『ささ、姫様参りましょう』と
桜奈手を引いた。
『うーん、・・・分かりました母上』
とは言ったものの募る不安に
後ろ髪引かれるように何度も
母の方を振り返りながら
渋々部屋へと向かった。
一方、今川邸では
『殿、取り急ぎのご報告がございます』
と、謀の密談をしていた家老が
報告をはじめた。
『上杉城を内偵させていた、間者によりますと
鷹山殿は、織田信長と通じ、謀叛を
企んでいるとの報告がありました。
これが、その証拠の文にございます』と
もちろん、その偽文は、桜奈の父を
陥れる為に書かれたものであった。
いつもであれば、洞察力鋭い義元で
あったが、先日の一件で腹の虫が
収まっていなかったこともあり
(策に長けた鷹山ならあり得る
かもしれない)と邪推が頭をよぎり
その疑心暗鬼がいとも簡単に義元の
洞察力を曇らせたのだった。
文を読みながら、みるみる顔色を
かえていく義元。
読み終える頃には、みたこともない
怒りを顕にした。偽文をビリビリに
破り捨て、怒りにワナワナと震えた。
鷹山への信頼が強かったゆえに
裏切られたことへの怒りもまた
強くなったのだった。
『お〜の〜れ〜、鷹山め、よくも
このわしを謀りおったな!!
ただで済むと思うな!!
直ぐに挙兵し、上杉城に攻め入る
支度せい!!鷹山もろとも
皆殺しにせい!!』
『はっ』と言う返事とともに
今川邸も一斉に慌ただしくなり始めた。