第12章 〜それぞれの覚悟〜
その言葉に今度は、家康がショックを
受ける番だった。
しかし、それが天邪鬼に更に火を付けた。
『分かった、今すぐ帰って』と
顔を、横に背けた。
桜奈は悲痛な表情を一瞬みせたが
覚悟したように凛とし、涙を溜めた目で
真っ直ぐ家康を見据えると
『承知致しました、ではこれにて失礼致します。
お世話になりました』そう、一礼した時には
涙が溢れ、雨のように地面に吸い込まれた。
桜奈は、家康を見ないまま
身を翻し、天幕へと戻っていった。
(くっ、俺は何言ってんだよもう!)
そう言って、しゃがみこむと
髪を鷲掴みにし頭を抱えた。
(心配しすぎて、俺の心臓が持たないよ・・)
と、桜奈の後ろ姿を見つめたが
桜奈は、一度として振り返りは
しなかった。
(はっー、そうだった、俺のお姫様は
一度こうと決めたら信長様ですら
止められない頑固者だった、忘れてた)
と、ため息をつき立ち上がった。
一方、桜奈も家康が自分を
心配してしまうことも、怒ることも
分かっていた。
それでも、家康の身に何かがあれば
生きては行けない、そう思った。
だから、生きていてくれさえいればいい。
それ以上、何も望まない。それくらいの
強い気持ちでここにきた。
なのに、売り言葉に買い言葉であったにせよ
想いはすれ違い、こんなことになって
張り裂けそうな胸の痛みが、一歩、また一歩と
家康から遠ざかる毎に増して行く。
(涙で、前がよく見えないですわ。
やはり泣き虫は、困りものですね。)
自分を宥めるように、そう自分に呟き
それでも流れる涙を拭うこともせず
淡々と歩いた。
すると、ぐいっと後ろ手を掴まれ
次の瞬間、家康の腕の中に包まれた。
もう、二度と会えない。そう覚悟して
いた桜奈は(えっ?)と驚いた。
家康が苦悶に顔を歪め
桜奈を自分の胸に押し当て
桜奈の頭に頬をつけた。
『桜奈の頑固者!無茶ばっかりして
俺の心臓、止める気だろ?』
『だって、家康様の身に何かあれば
桜奈は、生きては行けない
のですよ。だから・・・』と
涙声で訴え、家康の着物をぎゅっと
掴みながら泣きじゃくった。
(//はっー、参るよ。意思が強すぎる
かと思えば、俺なしで生きれられないとか
可愛いすぎるだろ//)