第2章 〜突然の別れ〜
桜奈を見送り襖をピシャリと締めると
紅葉を包んでいた紙を
蝋燭の火でそっと炙ってみた。
すると、みるみる文字が浮かびあがり
『御身に謀事の不穏な動きあり
注意されたし』と書かれてあった。
日頃から筆頭家老達に妬まれ
疎まれていたのは、知っていたが
ことここにきて、義元様にまで
疎まれ始めてしまった・・・
あまり、猶予はないと言うことか・・
と、これから起こるであろうこと
を悟ったのだった。
同時に、この急を機転を利かせ
知らせてくれた、竹千代の才覚の
深さに驚いていた。
(竹千代殿、かたじけない。
どうか娘を桜奈を守ってやってくれ・・)
何かを決心したかのように
心の中でそう呟いた。
桜奈の父はすぐさま、家臣を集め
軍議を開いた。
勝ち目などない、戦が始まろうとしていた。
しかし、身を粉にし今川の為に
尽くして来た桜奈の父にとって
この仕打ちは武士の誇りにかけて
許せるものではなかった。
汚名を着せられ、切腹を
言い渡されるよりは
自らの誇りに賭けて
信念を貫くと決めたのだった。
その決断に家臣の誰一人
意を唱えるものは居なかった。
自分の決断に熱い思いで
応えてくれた、家臣達に
桜奈の父は
『皆のものすまぬ、かたじけない』
深々と頭を下げた。
『殿、もったいのうお言葉で
ございます。』
『どうか、頭をお上げください。』
『我々は、最後の一兵になっても
戦う覚悟はできております』
『殿のお側でお仕えできることが
身に余る幸せなのです』
口々にそう語ったのであった。
そして、民への負担を
最小限にとどめようと
桜奈の父は次々と指示をだした。
民にまもなく戦が始まることを
触れ回り、一人でも多く避難を
させること。
民を逃す間、出来るだけ
今川軍の足止めをはかり
その後、籠城し
城だけを標的にさせ
田畑への被害をできるだけ
抑えること。
何よりも民が優先だと
そう指示をだした。
家来達は、散り散りに
自分のなすべき仕事へと
向かった。
桜奈の父は、急ぎ信長に宛て
文をしたため、家臣に
早馬で届けさせた。
急に城内が慌ただしくなり始め
桜奈もまた、胸騒ぎと
得体の知れぬ不安に襲われたのだった。