第12章 〜それぞれの覚悟〜
家康が戦に行ってから一週間ほどが経った。
家康は、支城を守りきり、手を緩める
ことなくジリジリと前線を押し上げ
進軍していると報告が上がっていた。
栞にも、時間は無かった。
ワームホールが開くと言われた
三ヶ月まで、一週間あるかないか
程に迫っていた。
桜奈と作り始めた着物二着は
既に仕立てあがり、手紙と一緒に
風呂敷の中に包んで置いて
いつでも出発できるように
荷物もまとめてあった。
栞の気持ちは、既に決まっていた。
ただ、頼みの綱の佐助からは
未だ何も連絡は無かったのだ。
一方、桜奈は、戦況の
報告が上がるたびに、家康が
無事であることに安堵し
また、無事を祈る日々。
桜奈は廊下を歩いていると
向こうから、三成がこちらに
向かってきた。
桜奈と目があった三成は
ほんの一瞬だけ目を逸らし
また何事も無かったように
天使の微笑みを桜奈に向けた。
『桜奈様、家康様から
傷薬が足りなくなりそうなので
調合して私にもたせるようにと
ご伝言をお預かりしてきました。
お忙しいとは思いますが、明日には
また物資の補給に戦さ場に
行きますので、できる分だけで
結構ですから、取り急ぎ
お願い致します』と桜奈に
一礼した。
『三成様、畏まりました。
急いでお作りいたしますね。
三成様は、これからご信長様に
ご報告ですか?』
『はい、そうなのですが
信長様は、今お出かけになられて
いて、まだお戻りではないので
お戻りになり次第、ご報告に
伺うつもりです』とまた、
柔らかな笑みを浮かべた。
『では、私もお薬を作りに
戻りますね』
そう言って別れた桜奈は
急いで薬を調合し始めた。
いつも真っ直ぐな眼差で
人を見つめる三成が一瞬
目を逸らしたことが気になっていた。
(何故、私を見て目を逸らしたのかしら?
傷薬も、足りなくても家康様がお作りに
なるはずなのに、それ程、戦況が思わしく
ない?いえ、でも前線を押し上げる程の
破竹の勢いなのに?)
一つの違和感から、次々と、不安が
込み上げてきた。
(ダメよ、こんなことを考えてる場合
じゃない。今は目の前の作業に集中
しなくては。)気持ちを切り替え、
予備として保存しておいた薬草を
使い、桜奈は傷薬を次々と作った。