第12章 〜それぞれの覚悟〜
『じゃ、こっちは俺が
戻るまで、桜奈に預けて
おくから持ってて』と
さっき脱いだ羽織を桜奈に
渡した。
桜奈は、愛おしいものを
抱きしめる様に、家康の羽織を
抱える。
家康は、『桜奈』と言って
桜奈を抱き寄せた。
桜奈は、
寂しさと不安の入り混じった
表情で家康を見上げた。
瞳は、今にも零れそうな
涙で潤み揺れていた。
そんな桜奈を翡翠色の
瞳が優しく見つめ返す。
それから、優しく口付けすると
桜奈を抱きしめ
『俺の帰る場所は、桜奈の
ところしかないから。
必ず戻る。心配しないで
待ってて』
頷く桜奈の瞳から
一雫涙が零れた。
家康を抱きしめ返す様に
『どうか、ご無事にお戻りください。
桜奈の心は、いつでも家康様と
共におります。
ご武運をお祈りしています。』
もう一度、優しく口付けすると
『じゃ、行ってくる』と言って
家康は、外へとむかった。
颯爽と馬に跨り、業軍の先頭に
行く間、兵たちに檄を飛ばす
『皆の者、心して聞けー
信長様の御為、この戦必ず勝たねばならぬ
1人でも多くの敵兵を倒し、勝って必ず
この地へ戻る!それが我らに課せられた
責務!!誰一人として
無駄死には許さぬ!よいなー!!』
そう言いながら、行軍の先頭に辿りつくと
見送る桜奈を一瞬振り返り
真っ直ぐ見つめ(行ってくる)と
心で呟く。
その呟きが聞こえているかのように
桜奈も真っ直ぐ家康を見つめ
(どうか、ご無事でお戻り下さい)
と祈りを込めた。
家康は、直ぐに前を、見据えると
『皆の者!行くぞ!出立ーつ!!』
と言うと、兵達からは、『おぉっー!』と
士気高揚の声が地鳴りのように響いた。
凛とした強さで、家康の背中を
見つめていた桜奈は
行軍が動きだすと『皆様、ご武運を』
と深々と一礼し見送った。
一緒に見送っていた栞は
視線一つ動かさず
家康の背を見つめ見送る
桜奈の姿が戦にいく
家康ほどに凛々しくみえた。
漂うその気迫に、鳥肌が立った。
栞は、桜奈に将軍の妻
の覚悟を見た気がした。