第12章 〜それぞれの覚悟〜
安土城に戻った桜奈と栞は
早速、買ってきた反物を仕立て始めた。
『栞さん、ここはこれで、宜しいですか?』
栞も自分が買ってきた反物を仕立てながら
『どれどれ?あっうん、大丈夫。
そのまま続けて』と桜奈に
手解きしていた。
『栞さん、ごめんなさいね。
お仕事の仕立てがあるのに
ご無理言って。』
『気にしない、気にしない!』と
言ってから、揶揄うように
『あら?桜奈様、お手元が
お留守になってらっしゃいますわよ』
と、桜奈のを真似をした。
『もう、栞さんたら』と
二人は、顔見合わせクスクスと
笑い、またそれぞれの作業に
没頭していった。
二人は、それぞれ寝る間を
惜しんで着物を仕立てていた。
桜奈は、栞がお針子の依頼で仕事を
していると思っているようだったが
栞はあえて何も言わなかった。
栞は、男性用と女性用の二着を
仕立ていたのだ。
(絶対、間に合わせないと)
栞は、取り憑かれたように
作業に没頭したのだった。
あっと言う間に日にちが経ち家康が
出立する前日に家康の羽織は
仕立て上がった。
『やったね!桜奈さん
上手にできてるよ!ほんとに
頑張ったよねー』と栞に褒められ
『栞さんのお陰です。
本当にありがとうございました』
とお礼を言った。
そして、出立日当日。
家康は、桜奈の部屋を訪れていた。
甲冑を身につけた、武将らしい
姿の家康をみて、桜奈は
家康が戦に行くことが現実なのだと
不安が込み上げてきた。
でも、心配させまいと気丈に
振る舞うものの家康には
痛いほど伝わっていた。
『家康様、私も共に戦さ場に
お連れ下さい』と言う桜奈に
急に何を言い出すんだ!?と言う
顔をする家康。
『無理なことは、分かっております。
でも、そう言う気持ちで、これを
仕立てました。こちらを受けとって
下さいますか?』
『これを俺に?』と辛子色の羽織を
広げ驚く家康。
早速、自分の着てきた羽織を
脱ぎ、桜奈が仕立てて
くれた羽織を着た。
『やはりこのお色にして
ようございました。とても
お似合いです。これを私と
思って下さると嬉しゅうございます』
『ああ、俺も。
桜奈に包まれてる気がする。
ありがとう、大事にする』