第11章 〜決意〜
信長の言葉に、誰も何も言わなかった。
いや、誰も何も言えなかった。
信長は、別れの日まで、何も詮索せずに
いつも通りに接してやるように
皆に釘を刺した。
会議が終わると、また桜奈は
栞のところにお茶と政宗が作ってくれた
お菓子を持って訪れた。
『栞さん、いらっしゃいますか?』
『桜奈さん、どうぞ入って』
桜奈が中に入ると
『桜奈さん、心配をかけて、ごめんなさい。
ちゃんと朝餉も頂いたよ』瞼は、まだ少し
腫れていたが、少し元気になっていた。
『それは、ようございました。』
そう言って、お茶を入れ栞に手渡した。
『あったか・・・』
栞のその姿を見たら、今度は桜奈が
涙が出てきた。
信長が特別な感情を抱いて栞を見つめていた
時を思い出し、愛する者の幸せだけを願い
身を引いた信長の心中を思うと切なかった。
そして、同じように
栞が信長の側で信長を支えて行く自信が
ないと言ったのは、自分が隣にいることで
信長の本懐を遂げる、足手纏いには
なりたくない。
誰よりも信長の成功を願い、想うがゆえに
自信のない自分が信長の側にいては
いけないと、身を引こうとしている
栞を思うと切なかった。
お互いを強く想うがゆえに、自分の気持ちを
押し殺し離れてしまおうとしている
二人がもどかしくて、悔しかったのだ。
『桜奈さん?どうしたの?』
と焦る栞。
『あっ、ごめんなさい、いきなり泣いたら
びっくりしますよね。でも、私、本当は
筋金入りの泣き虫なんですのよ。
それで、父によく叱られました。竹千代殿に
嫌われるぞと。桜奈は、竹千代殿の
お嫁さんになるのだから、強くあらねばならない
強くなって、竹千代殿を支えて
行かねばならない。それが父の口癖でした。
そう言われて育ちましたので、何としてでも
大好きな竹千代様のお嫁さんになりたかった
私は、幼心に、強くあらねばならないのらな
強くなろう。そう決めてからは滅多に
泣かなくなっていたのですけれどね。
いつの間にか泣き虫に戻ってしまいました』
と今度は、涙を拭きながらクスクスと笑った。