第11章 〜決意〜
栞は、泣き疲れ
そのまま眠ってしまっていた。
よく朝、桜奈は
濡れた手拭いと、朝餉を持って
栞の部屋を訪れた。
『栞さん、お目覚めですか?』
『桜奈さん?私きっと酷い顔だから
顔を合わせるの、恥ずかしいんだけど・・』
『気にしないで、栞さん。目を冷やせるように
手拭いも持ってきましたから使って下さい。
ここに朝餉と一緒に置いておきますね』
『ありがとう、桜奈さん』
桜奈は、朝餉を襖の前に置いて
その場を後にした。
栞は、桜奈の優しさにまた
涙が出る。持ってきてもらった
手拭いを目に当てながら、また泣いた。
(もう、いい加減、泣き止まないとな)
そう思いながら、涙がまた出る。
そんな日が三日程続いていた。
栞は、部屋に閉じこもったままだった。
元気で明るい栞の姿がない安土城は
まるで火が消えたように静かだった。
武将達も何かがあった事は察していた。
信長も事の次第を説明しなければ
余計な不信を招くと判断し、事情を
説明する為の会議が開かれた。
その前に、栞に承諾を取るよう桜奈が
申しつかって栞の部屋を訪れた。
『栞さん、少しお話があるのですが
宜しいですか?』
『桜奈さん?どうぞ入って』
桜奈が、栞の顔を見るのは
三日ぶりだった。
栞の瞼は、腫れていてまだ、
気持ちの整理などついていない
ことは痛いほど分かった。
『栞さん、大丈夫?』
『ごめんね、桜奈さん、こんな酷い顔
本当は見せたくないのに、涙が勝手に
出てきて、自分でも困っちゃうよ』
そう言って、涙をまた浮かべる。
桜奈は、栞をそっと抱きしめ
『今、どんなにお辛い気持ちでいるか
分かってますから我慢せずに泣いて
いいと思いますよ』
そう言って、背中をさすった。
『ありがとう、桜奈さん』
そう言うだけで精一杯の栞は
また涙する。
『栞さん、実は城の方々が栞さんの
姿が見えないと、心配なさっています。
信長様もこのまま、黙っているわけにも
いかず、栞さんのお許しが頂けるなら
皆さんに本当のことをお話したいそう
なのですが・・・
皆様に、お話しても大丈夫ですか?』
『そうだよね。分かった。皆にも事情を
知ってもらって、ちゃんとお別れしたいから
お願いします』