第11章 〜決意〜
桜奈には、どちらの気持ちも
痛いほど分かった。
『分かりました。信長様が栞さんを
想い、そうお決めになったのなら
仕方ございません』と、それでも
二人の気持ちを思うと、涙が零れた。
『桜奈、栞は、自分がいた世に
ついて何か言っておったか?』と
信長に尋ねられ桜奈は、涙を
拭いながら答えた。
『はい、栞さんの住む世は
とても平和だそうです。
人が人を殺めたりすれば罪に
問われると言っておりました。
だから、ここにきて、戦で
人の命が簡単に奪われてしまう
事が理解できないと。
けれど、信長様は、戦の先頭に立ち皆を
まとめ上げなければならない立場の方ゆえ
戦を理解できない自分が、信長様の隣
で支えには、なれないかも知れない
自信がないそう仰って迷っておられました。』
『そうか、それなら、尚のこと
元の世に帰る事が栞の為になる。
迷うたまま、ここに残れば必ず後悔する。
それは、このわしが望まぬからの。』
『今日は、もう貴様も下がってよい』
と信長は桜奈に言った。
表情にも言葉にもしなかったが
まるで、今は一人にしてくれ
そう言っているように桜奈は感じ
『はい。では、失礼致します』
と部屋を後にした。
一方、天守閣を飛び出すように自室に
戻った栞は、畳に突っ伏して
流れる涙を拭うこともせず
ただただ、泣いていた。
畳の上に後から後から流れる
栞の涙が、雫になって集まり
水たまりができた。
(私は、なんて馬鹿なの・・・
自分のことなのに自分で決められなくて
信長様の想いを試してしまった。
今になって、こうなって初めて
自分が、本当はどうしたかったに・・・
気づくなんて・・・もう・・遅いのに・・)
そう思いながら、泣いても泣いても
涙は止まらなかった。
自分がどれ程、信長を好きになって
しまっていたのか、別れが現実に
なった途端に思い知ったからだ。
桜奈も襖越しに、栞がどれ程
胸に痛みを抱えて泣いているのか
手に取るように分かっていた。
けれど、かける言葉など見つけ
られないまま、今は
そっとしておくべきと
静かにその場を後にした。