第10章 〜ありふれた日々〜
『そんな、お寂しこと言わないで』
と桜奈は泣きそうだった。
『私も桜奈さんと離れたくない。
全然知らない土地に来て、不安で不安
で仕方なかったのに、桜奈さんが
私には心の支えだったんだよ。
今こうして、信長様と恋仲にまで
なれて、武将さん達もみんないい人で
毎日が幸せで、楽しくて仕方ないよ。
だけど、国に残してきた、父や母に
心配をかけてると思うとね・・・
国に戻った方がいいのかと
正直、悩んでいる。』
『では、一旦、国元に帰られて
ご両親の承諾を得て、また戻る
ことは叶わないのですか?』
『そうしたいんだけど、私の国は
異国と同じくらいはるか遠くで
一旦戻れば、きっともうここには
戻れないと思う。』
『そんな!!・・・』と桜奈
『それ程、遠いお国からいらしてた
なんて知りませんでした。栞さんの
お国は、どんなところなのですか?』
『まぁ、日の本には違いないけど
戦なんてない、平和な国よ。
人が人を殺めたりしたら罰せられるしね。
だからこの土地にきて、戦で人が簡単に
殺されてしまうこが理解できなかった。
今も理解はできないの。だけど
私が好きになった人は戦の先頭にたって
皆をまとめなければ、ならない人だもん。
どうして戦をするのか理解できない私が
戦をしなければならない信長様を
支えて行けるなんて、とても思えないし
そんな自信なんてないもの・・・』
桜奈は、栞の手を取り
『栞さん、信長様を支えていくと言うのは
何も正室としての役割を務めあげることでは
ありません。
信長様は栞さんもご存知の通り
誰よりも優しい方です。
その方が、例え敵であろうと
命が消えていく事に、御心を痛めて
いないはずがないのです。
でも、そんな事をおくびにでも出せば
命をかけて、信長様が果たそう
としている天下布武の目的を支えている
家臣達を失望させてしまいます。
大事なものを守る為、一刻も早く
栞さんのお国のような泰平の世を築く為
数え切れない痛みと苦しみ、そして悲しみに
耐えているからこそ、あの冷徹な
お姿を装うより他に術がないのだと
私は思っております。
そして、栞さんといる時だけがその傷が癒え
痛みが和らぎ、心休まるのだと思います。』