第10章 〜ありふれた日々〜
一瞬、目を開けた家康は
かかったなと言う目をすると
そのまま、深く蕩けるような口付けを
桜奈にした。
一瞬、唇を離し『お約束がちが・・・』
と言いかけたが、口付けは激しく
なるばかり『あっ・・』と桜奈から
吐息が漏れた。
自分で名案と思ったのに、このままだと
自分を止められなくなりそうな家康は
(俺が、策に溺れてるし)と半ば
自分に呆れた。
理性で何とか踏み止まると
今度は、昨日の夜のように
桜奈の胸に顔を埋め
桜奈を抱きしめた。
『家康様、お約束が違います』
と言う桜奈に
『桜奈が悪い、俺をこんな
気持ちにさせるから』と
『もっー』と桜奈は
またジタバタしながら
暫しじゃれあっていると
襖の外から、『コホン』と
咳払いが聞こえ
『家康様、桜奈様、朝餉の
準備が整いましてございます』
と、千草の声がした。
千草は、桜奈のお目付け役として
栞と交代するように、家康の御殿に
きていたのだった。
『千草、違うのこれは・・・』と
慌てて言い訳する桜奈。
『桜奈様、分かっております
ご心配なく。ただ急ぎませぬと
家康様も城への登城が遅れて
しまわれますよ』と言い
その場を立ち去った。
『もう、家康様のせいでございます』
と、頬を膨らませる桜奈
『怒った顔も可愛い』と
桜奈のおでこに口付けすると
お互いのおでこをつけて、クスッと
笑いあった。
(一日も早く、毎日、こんな朝を
迎えたい。)そう思う家康だった。
それからバタバタと支度し
朝餉を取り、身支度を整えると
桜奈は、見送りに集まって
くれた、家臣や女中達に
『大変、お世話になりました』
と千草と共に、深々と一礼した。
『一日も早く、婚儀が整い
桜奈様が輿入れして下さる日を
我々一同、心待ちにしております』と
言ってくれた。
『ありがとうございます』とふわりと
優しい笑みを浮かべる桜奈に
見送りしている者達からは
『ハッ〜』とうっとりするような
ため息が漏れた。
(家臣達の心も鷲掴みかよ)と
家康は、敵わないと言う表情で
『はい、もう行くよ。早くしないと
遅れるからね』と桜奈の手を
引っ張るように出かけたのだった。