第10章 〜ありふれた日々〜
『い、家康様、あ、あの意地悪しないで
腕を、解いて下さい』とまたジタバタ
するが
『俺に意地悪したのは、桜奈の方。
だから、お仕置き中』と胸に閉じ込めたまま
全く離してくれそうにない。
困っているのに、このままでいたい
気持ちもどこかにある桜奈。
『あの、では、どうしたらお許し
頂けます?』と聞かれ
家康は、『うーん、どうしようかな』と
言いながら、少し意地悪な笑みを
浮かべ『じゃ、桜奈から口付け
してくれたら許す』と我ながら名案と
思った。
『えーっ、そんな、はしたないこと
桜奈にはできません、ご勘弁下さい』
と桜奈が言うと
『じゃ、朝餉の声がかかるまで
このままね』と意地悪く言う。
『そ、そんな困ります』と半べそに
なった桜奈だったが意を決して
『分かりました、やってみます』と
答えた。
すると家康は桜奈と
同じ目線まで身体を下げて来た。
家康と目が合う。
さっきから、もうこれ以上
赤くなれないくらい
真っ赤顔の桜奈の
瞳は、どこに視線を向けたら
よいのか分からないと
目を伏せる。
桜奈の長い睫毛が
その瞳を隠した。
家康は、いつまででも
桜奈を見つめていたかったが
目を閉じて『はい、どーぞ』と
桜奈の口付けを待った。
桜奈は家康が目を閉じて
くれたのでやっと家康の顔を
直視する。ふわふわの猫っ毛が
目元に少しかかり、長い睫毛と
重なり合う。
桜奈もまた、ずっと眺めて
いたい気分になったが
愛おしさが込み上げ、家康の
頬に手を添えると、おでこに
震えながらそっと口付けした。
家康は、目を瞑ったまま
『ちがうー、そこじゃないでしょ』
と言うと、また、まだですかと
言うかのように、少し顎を上げた。
『えーっ』と桜奈は言ったが
このままでは、本当に誰かが起こしに
きてしまうと、また少し震えながら
家康の唇に自分の唇が触れるか触れないか
ほどの口付けをしたが、『ダメー、もう一回』
とまた言われ、『えっ?もう一回』というと
『そう、もう一回、ちゃんと』と言われ
今度は、しっかり唇を重ね口付けした。
その瞬間、さっきまで緩んでいたはずの
家康の腕がいつの間にか桜奈の頭と
背中に回っていた。