第10章 〜ありふれた日々〜
かくして、囲碁の対局とともに
家康の己との闘いもはじまった。
(ほんと無理、ほんと勘弁して)
半泣きの家康は、さっさと決着を
つけて、桜奈を自室に
戻すことだけを考えていた。
パチッ・・パチッ・・パチッ
碁石を置く音だけが静かに鳴り響く。
碁盤を眺め真剣に考えこむ桜奈に
手を伸ばしたくなる衝動を
必死に堪える家康。
それを嘲笑うかのように
湯浴みの後で、ほんのりピンクに
染まる桜奈の白い肌に色香が漂い
真剣だからこそ、余計に妖艶に
見える上目遣いで
『やっぱり家康様はお強いですね』
と、微かに微笑む。またすぐに 碁盤に
視線をもどす。
(/// 俺、悶え死ぬかも///)
とにかく、一刻も早く決着をつけ
桜奈を自室に戻さねばと思う
家康だったが、桜奈の腕前は
油断したら、家康が負けてしまう
ほど上達していた。
そして、また家康の長い指に
挟まれた碁石がパチッと碁盤に
置かれると勝負あった。
桜奈は一瞬『くっ』と息をもらし
やはりあの当時と変わらぬ悔しそうな
表情を浮かべたが、すぐに笑みを
湛え『参りました』と一礼した。
(///いや、参ってるの俺だから///)
と家康は思ったが、勝った満足感から
少し余裕が出てしまい
『ねぇ、桜奈、勝った俺に
ご褒美ないわけ?』と企みの
笑みを浮かべた。
『えっ?』と何を求められているか
さっぱり分からないと言う桜奈に
『ここきて』と自分の膝を指す。
桜奈はキョトンとしたまま
言われるがまま、『はい』と
ちょこんと家康の膝の上に座った。
すると家康は、『じゃ、遠慮なく』と
言うと桜奈の両腕を閉じ込める
ように、抱きしめると
桜奈の胸に顔を埋めた。
『ヒャッ』とびっくりしたのは、桜奈だ
(////えっ///)と鼓動が跳ね上がった。
家康が桜奈を見上げ
『桜奈、無防備すぎ』と
目元を赤くしながらまた
目を泳がせ、言い終わると
桜奈の胸元に顔を埋めた。
桜奈はクスクスと
笑うと、目を泳がす目の前の家康が
再会した宴の時の家康と重なり
自分の腕をそっと抜くと
あの日できなかった思いを果たすように
子猫でも抱きしめるように
家康をぎゅーと抱きしめた。