第9章 〜記憶の欠片〜
信長が連れてきてくれた場所は
どこまでも広がるように
一面に色とりどりの
小花が咲き乱れる草原だった。
草原の奥には、小さな小川が
流れ、微かにせせらぎの音がした。
蝶があちこちで戯れるように
ひらひらと舞い、小鳥のさえずり
か聞こえ、風が優しく吹き抜ける。
『すごーい!きれー!!』栞自身が
花にでもなったかのように
パァッと表情が明るくなり
振り返り信長を見ると
『信長様!ありがとう!』
そう言って、今までに見たことの
ない、満面の笑みを信長に向けた。
(参ったな、これは・・・)
信長は、ニヤけてしまう
自分の口を隠すように、
口元に手をやった。
それから、深呼吸するように
大きく手を広げ、気持ち良さ
そうに目を瞑る栞にそっと
風が吹きぬける。
栞の髪が風に遊ばれるように
なびいて揺らめいた。
このまま、飛び上がり空へと
消えていってしまいそうな栞を
どこにも行かせぬと言うように
信長は栞を思わず後ろから
抱きしめていた。
(///<ドクンッ>///)『信・長・・様?』
『貴様、やはり、わしの女にならぬか?』
(もーっ、また懲りずに揶揄う。
そんな揶揄いされる度に、私が悲しくなるって
知らないでしょ)と、一瞬寂しくなった。
けれど、お約束の反応をしてしまう栞。
『もう、またそうやって揶揄って
私で遊ばないで下さい!!』
そう言って、信長の腕から逃れようとした。
けれど、ビクともせず、腕の中に
閉じこめられたままだった。
『わしは、同じ台詞で何度も
貴様を揶揄うほど暇ではない。』
『えっ?』
『なら、こうすれば揶揄いではなと
わかるか?』
そう言うと、栞を自分の方に向かせ
栞の顎をクイッと持ち上げると
自分の唇を栞の唇に押し当てた。
(////へっ?////)
驚きのあまり目を見開き、固まる栞。
でも、拒めなかった。
すぐに目を閉じ受け入れた。
自分がずっとこうして欲しかったのだと
ようやく気づいた。
(私、信長様を好きなんだ・・・)
栞は、信長の腕を掴み
信長の想いに応えたのだった。
それに気づいた信長は
栞を自分の胸に閉じこめると
『貴様の全てがわしのものだ
今後、わしから離れるなど
絶対に許さぬ!』
栞は、信長の背中には手を回し
コクッと小さく頷いた。
そして、また溶け合うような
甘い口づけを交わした。