第9章 〜記憶の欠片〜
『もう、信長様には、敵いません!』
『初めから、正直に申せばよいものを』
『だって、そんな事でって思われる
ような話だったから・・・』
『で?話す気になったか?』
『はぁ・・・本当に自分でも
恥ずかしいくらい、大した話じゃないんです。
ゆ、雪姫さんが、家康の看病に
掛り切りで、最近、全然お話も
できてないし、ゆっくりお茶
したいなーって思って拗ねてただけです』
と口を尖らせ、指をもじもじさせながら
不満そうな栞。
それを聞いた信長は、一瞬呆気にとれ
これ以上ないと言うほど肩を揺らし
クックックと笑い出す。
『ほらー、だから言いたくなかったんです』
さらに頬を膨らましぷんぷんする栞。
『貴様、わしを笑い死にさせる気か!』
とまた、笑う。
『もう、いいです!私にとったら
雪姫さんは、大事な癒しなんです。
ここに来た時からの心の支えなんです。
信長様にはわかりませんよ』とぷいッと
横を向くと、『じゃ、用事は済みましたので
失礼します』と出て行こうとした。
すると『待て、栞』と言われ、振り向くと
手を掴まれ『出かけるぞ』と引っ張り
信長は、栞を連れ出した。
栞は、『へっ?』という顔で
呆気にとられていたが、信長は
お構い無しに手を引っぱり部屋を出た。
それから、栞を馬に乗せると、走り出した。
『うわぁ、風が気持ちいいー』
さっきまで拗ねていたカラスは
風に髪をなびかせ、瞳をキラキラ
させながら、心地よさげな笑みを
湛える。
目線をチラッとだけ下に向け
その表情を捉えた信長は
満足気な笑みを浮かべ
また、前を見据え
『栞、しっかり捕まっていないと
振り落とされるぞ!』と言うと
馬はスピードを上げた。
(うわっ!信長様にしがみつくのは
恥ずかしいけど///でも、落ちたら危ないからね)
そう思いながら、しっかり信長に
しがみつく。信長に密着で
きるのは、嬉しかった。
(拗ねてる私の為に、気を遣って
くれたんだ、やっぱり優しいな)
そう思うと、顔が勝手に緩んでしまう。
なんでそんな気持ちになるのか
自分の事には、鈍感な栞には
まだ、分からずにいた。
ただ、この瞬間が嬉しくて
ドキドキしている自分が恥ずかしくて
でも、ずっとこうしていたい
気分になる自分が不思議で
(なんだろう・・・この気持ち)