第9章 〜記憶の欠片〜
強い眼差しで家康にそういったかと
思うと、今度は気恥ずかしそうに
『それに、桜奈の泣き虫は
筋金入りなのです。幼い頃から
些細なことで、すぐ泣く子だったのです。
見兼ねた父が私の恋心を利用して
『泣き虫は、竹千代殿に嫌われるぞ』
と言われてしまい、嫌われたくない
一心で泣かないようにしていただけで
ございます。家康様も泣き虫は
お嫌ですか?』と上目遣いで
恥ずかしそうに聞いた。
(/// 動けない今の俺に、それ拷問 だから////)
家康は、左手で雪姫の頭をそっと
撫でると『泣き虫な桜奈も雪姫も
嫌いじゃない』と自分で言って
おきながら、目を逸らし
耳まで赤くして照れる家康だった。
そんな、仲睦まじい二人に
つまらなそうにするのは栞だった。
家康に大好きな姉を取られたよう
な気分で、少しむくれていた。
『家康が大変な時だから、仕方
ないけどさ、ちょっとくらい
雪姫さんとお茶くらいしたいのにー』
ブーブー言いながら、仕立てた着物を
信長様の元へ届けるところだった。
『信長様、依頼されたお着物を
お届けに上がりました』
『栞か?入るがよい』
『失礼します。』と言って
部屋に入ると、『信長様、お着物の
仕立てが終わりましたので
一度合わせて頂いて宜しいですか?』
『分かった』と信長が着物を羽織ると
『失礼します』と、肩や裾の具合を
確認していると『どうした?今日は
やけにむくれているな、何かあったか?』
と言われ、自分では平静を装っていた
つもりだったのに見透かされていた。
『えっ、別にむくれてなんてませんよ』
と、目を泳がせ言ってみたものの
信長に通じるはずもなく
いきなり腕を掴まれ抱き寄せられると
『貴様、それで誤魔化してるつもりか?』と
ニヤリとしながら、栞に顔を近づける
(/// ち、近いー///)と真っ赤になる栞。
『もう!揶揄わないで下さい。
着物の確認ができないから
離して下さい。』とぷんぷん怒りだす。
(いつ見ても、貴様の百面相は飽きぬな)
栞に言われ、大人しく着物の
確認作業に協力する信長。
『はい。もう大丈夫です』
そう言って、信長から着物受け取ると
丁寧に畳み、信長に納めた。
『して、一体どうしたのだ?』
と信長はまた栞に尋ねた。