第9章 〜記憶の欠片〜
それから、雪姫は家康から片時も
離れず看病を続けた。
熱は下がらず、全身に
走っているだろう激痛で
意識がないのに、苦悶に顔が歪む。
家康から教えてもらった薬を
調合し、傷の手当てを
続けた。右の二の腕の傷が
一番深く、紫色の青あざが
身体中にあり、どれ程
殴られ、蹴られたのかと思うと
雪姫の胸は軋み、涙をぐっと堪え
るのが精いっぱいだった。
助けだされてから丸一日して
家康はやっと目を開けた。
目を開けると、目にいっぱい涙を
溜めながら覗き込む雪姫の顔が
あった。
『ごめん、また泣かせた』
家康の手を握りしめて
自分の頬に当て、首を
微かに横に振る雪姫。
『竹千代様、またお会いできる
日がくるなんて桜奈は
夢のようでございます
本当にご無事で
ようございました。』
そう言って、雪姫は涙を、流した。
『雪姫?』と驚いて目を見開く家康。
『家康様が捕らわれたと聞き
生きた心地がしませんでした。
もう二度と誰一人、愛する者を
失いたくないと言う強い
想いが、私に全てを
思い出させてくれました』
家康は雪姫から手を離し
左腕で瞼を覆うと
『俺も桜奈にずっと会いたかった』と
腕の隙間から光るものが
一筋流れ落ちた。
それから、少しずつ回復して
いく家康は、ここぞとばかりに
雪姫に甘え放題だった。
『ふっー、ふっー』
『家康様、お熱うございますから
お気をつけ下さい。』
と、口にお粥を、運んでもらい。
『お口の中は、痛みませんか』
と、見ているこっちが、恥ずかしく
なる程、仲睦まじい姿。
目の前でそんな姿を見せられ
見舞いがてら、揶揄いにきた筈の
光秀、秀吉、政宗、栞はゲンナリ。
三成だけ、微笑ましく眺めている。
『雪姫、そんなに甘やかしては
家康が腑抜けになるぞ!』と光秀。
『ったく、左手動くんだろう
自分で食えばいいだろ』と秀吉。
『俺が作った粥だけど
唐辛子ぶっかけときゃ
よかったかもな』と政宗。
『いいなあ、私も雪姫さんに
あーんしてもらいたい』と栞。
『では、私でよければ雪姫様と
変わりますので、栞さま、雪姫様に
あーんして頂いてはどうでしょう。』と三成
『冷やかしに来たなら速攻
帰って下さい。
それから、三成に介助されるくらいなら
俺は断食する。』と相変わらず
不機嫌にいい放つ。