第9章 〜記憶の欠片〜
『家康様!!』と家康の部屋の襖を
開けると、武将達が揃っていた。
『貴様、大丈夫なのか?』
『はい、私は、もう大丈夫です
それより、家康様のご容態は!』
『かなり、痛めつけられたようで
意識が戻らない』と秀吉が言った。
家康の側に行くと、家康の身体には
沢山の包帯が巻かれ、包帯からは
血が滲んでいた。
苦悶に顔を歪め、荒い呼吸の家康。
『家康様、こんな酷い目に・・・』
と雪姫は泣きながら、震える手で
家康の頬にそっと触れた。
武将達は、ひとまず席を立ち
部屋を後にした。
信長がだけが残った。
雪姫は、全てを思い出した。
そして、夢で見たことを確認
する為、信長に尋ねた。
『信長様、桜奈は、全てを
思い出しました。』
『なに!!誠か!』
驚いたように雪姫を見つめた。
『はい、意識を失っている間に
夢を見ておりました。父上も母上も千草も
ずっと私の側にいたと。竹千代様も
私の側にいたのに気づかないのかと。
信長様にお聞きしたいのです。
家康様は竹千代様だったのですね。』
『あぁ、そうだ』
『やはり、そうでしたか。』
雪姫は、信長を真っ直ぐに見つめ
目にいっぱい涙を浮かべながら
『信長様、これまで私を見守り
大事に育てて下さいました事
心より感謝しております。
敵国の武将の娘の私に情けを
かけて下さった、このご恩は
生涯忘れません。』
と言って、ポロポロ涙を流した。
信長は雪姫を抱き寄せ
『当然のことをしたまでだ』
と頭を撫でてくれた。
『信長様ー!』雪姫は、胸に縋って泣いた。
『もうよい、泣くでない
泣くと鷹山にまた叱られるぞ』
そう、言って優しく抱きしめてくれた。
その様子を、雪姫の後を追いかけてきた
栞が襖の外から感じとっていた。
(信長様と雪姫さんの絆の間には
誰も入り込めないんだね・・・)と
そのまま、身を翻し広間へと戻った。
『雪姫、貴様に家康の一切の世話を
任せる。必ず、家康を回復させろ
よいな。』
『はい。お任せ下さい。
この身に変えても、必ずお救い致します』
と涙を拭い、頭を下げた。
信長は、一旦、広間へと
戻っていった。