第9章 〜記憶の欠片〜
顕如一派の賊の討伐の決行日が
明日に迫った夜、雪姫が家康の部屋を
訪ねてきた。
『家康様、雪姫にございます
少し、お時間頂けませんでしょうか?』
『どうぞ』
『失礼致します。夜分に申し訳ございません
どうしても、お渡ししたいものが
ございまして』と家康の前に座ると
『栞さんに教えて頂いて、作ってみました。
お気に召さないかも知れませんが
良かったら、明日、持って行って
頂けないかと思いまして・・・』と
わさびを模った小さな人形だった。
縫製は、細やかで、とても上手く
できているものだった。
『これ、何?』
『お守りにと思いまして』
『なんで、わさびの形なの?』
『わさびを助けた家康様を
今度は、わさびが守ってくれる
ようにと、願いを込めて作りました。
でも、あの、少し子供っぽかったでしょうか?
あっ、やっぱりお嫌なら・・あの・・
無理は、なさらない・・えっ?』
しどろもどろになって行く
雪姫が無性に可愛くて自分の
胸に抱き寄せていた。
『ありがとう、大事にする』
家康を上目遣いで見上げ
はにかむように微笑む雪姫。
(///あー、なんでこんな可愛いんだろ
俺のお姫様は///)
そして、ゆっくり雪姫のおでこ
に口付けすると、雪姫は顔を
赤く染めて、恥ずかしそうに
家康の胸に顔を埋める。
(/// ダメだ、これ以上は、俺がもたない ///)
雪姫に
『こんな、夜中に男の部屋に来て
どうなっても知らないよ』と
耳打ちすると雪姫は、慌てて家康から
離れた。
そして、自分の胸に手を当て
落ちつかせると
『明日のご武運をお祈りして
おります。どうかご無事に
お戻り下さいますよう、ここで
お待ちしております』と
三つ指をつき丁寧に頭を下げた。
『うん、ここで待ってて』と家康は答えた。
翌日、出立の準備をしている
家康の元へやってきた雪姫は
準備を手伝っていた。
不安と心配で今にも泣き出す
のではないかと言う顔していた。
家康は、準備を終えると
雪姫を抱きしめ、頭をポンポンと
撫でると『すぐ帰るよ』と慰めた。
玄関で家康を見送る雪姫には
さっきの不安気な表情は
一切なかった。
強い眼差しで真っ直ぐ家康を見つめ
『ご武運を』と頭を下げた。
『行ってくる』