第8章 〜想いよ、届け〜
頷いてからホッとした
雪姫の顔が一瞬歪み
足を抑えて座り込んだ。
さっき走ってしまったので
また腫れて痛みが出たのだった。
家康は、すぐに足首をみてくれた。
『はー』とため息をつき
『だから、走るなって言ったのに』
と言うと
『ごめんなさい』としゅんとする雪姫
(/// 許す!///)と心で即答した。
雪姫の足首の処置を終え
薬箱を片付けていると
目の端に赤いものをチラッと
捉えた。
気になって、雪姫の文机を
ちらっとみると、紅葉の葉だった。
家康は、『机の上にある紅葉見せて
もらっていい?』と聞くと雪姫は
コクっと頷いた。
家康は、文机に向かうと
広げられた文の中に見覚えのある歌と
見覚えのある名を見つけた。
(えっ、何これ・・まさか・・だよな)
自分を落ちつかせながら
雪姫に聞いた。
『この文と紅葉って、雪姫のもの?』
『はい。私が信長様に助けて頂いた時
肌身に離さず持っていたものだそうです』
『そうなんだ・・・もらったやつの事は
覚えてるの?』と聞くと。
『いいえ、でもたぶん竹千代様は
私の許嫁だったのではないかとは
思っています。』
(ダメだ、震えが止まらない)
『確か・・雪姫って・・本当の名
じゃないって・・言ってたよね。
本当の名を教えて・・くれないか』
『はい、・・(家康様、震えてる?)』
『私の本当の名は『桜奈』と申します』
(俺は・・俺は、今、夢でも見てるのか・・
ほん・・とう・・に・桜奈なの・か)
家康は、震える手で雪姫の頬に
触れると、『桜奈』と言って
突然、涙を流した。
雪姫は、家康の突然の涙に驚いた。
切なそうなのに翡翠色の瞳は
愛おしさに溢れ、涙で瞳の奥の
光が揺れる
『家康・・様?』と言い終える
前に再び強く抱きしめられた。
息もできないほどに
家康の方は小刻みに震え
泣いていた。
(桜奈が、桜奈が、生きてた・・
生きててくれた・・・!!)
もう、それ以上何も考えられ
なかった。