第8章 〜想いよ、届け〜
雪姫は、今か今かと
家康と、栞を待っていた。
(夕餉までに戻ると仰ってたのに
何かあったのでしょうか)
普段なら、あまり動じない雪姫だったが
賊のアジトが見つかったと言う
知らせを聞いてから、胸騒ぎを
抑えられずにいたので、心配で仕方なかった。
文机の上には、竹千代からの文が
開かれていた。不安になると
文を読み、紅葉を眺め落ちつかせ
るのは昔からの習慣のようなものだった。
(やっぱり、ちょっと見に行きましょう)
と、文を開いたまま、玄関へとむかった。
玄関で待っていたが、戻らないので
草履を履いて門の方へ歩き出した。
するとちょうど二人が見え
声をかけようとしたが、
手を繋いでいるように見えた。
雪姫が出迎えに来ていると
気づかない家康は、急いで欲しくて
栞の手首をグイグイ引っ張っり
ながら歩いていた。
『ったく、ほんと飲み過ぎ』
呆れながら歩いていたが
家康が急ぎ過ぎたのか
栞は、躓いてバランスを崩し
家康がとっさに抱きとめた。
その様子は、雪姫からみると
栞の手を引いて家康が自分の方に
栞を引き寄せ抱きしめたように
しか見えなかった。
『はっー、しっかりして』と家康。
『ごめん、ごめん、』と栞。
栞が家康から離れようとした時
『ザザッ』と砂利の音がしたので
二人が音がしたほうへ振り向くと
雪姫が両手で口を覆い、カタカタ震え
今にも泣きそうな顔で立っていた。
そして、2、3歩後ずさりし
身を翻し走ってその場を立ち去った。
(雪姫!なんでここに!!)と
思うと同時に、栞は、
『何してんの!早く行って!!』
栞に言われるまでもなく
焦って追いかけてた。
『雪姫!走るな!!』と家康の声が
聞こえた気がしたが、もう限界だった。
(毎日、毎日、自分だけが意識し
独りよがりで一喜一憂するのは
もう疲れた。
だって、この想いは届くことは
ないのだから。行き場のないまま
溢れるばかりだもの。
この想いに埋もれて溺れて
私が窒素してしまう。息ができない。
苦しい、もう嫌、もう終わりにしよう)
拭っても拭っても、溢れてくる涙。
自室の前まできた時、家康に
後ろから抱きしめられた。
『お願いです、離してください』
『絶対、離さない』