第8章 〜想いよ、届け〜
雪姫は、びっくりして
振り返ると、家康が林檎を
持って立っていた。
『へーっ、わさびが懐くなんて
珍しい』と雪姫の隣に座った。
雪姫は、家康が隣にいると
思うと、ドキドキする胸を
抑えようと、無意識に
胸に手を当て、着物を掴むように
握り拳を作っていた。
『家康様、特訓は?』
『ちょっと休憩』
雪姫の様子が、気になって追いかけて
見にきたと言えるはずもない。
わさびに話かけている
姿から、原因は分からないが
落ち込んでるいることは察した。
『はい、これ』と林檎を渡され
わさびにあげるように促された。
林檎を、わさびにあげながら
『この子、わさびって言う
名前なんですか?家康様が
飼ってらっしゃるの?』
と雪姫は質問した。
『ただの非常食』と言う
家康に『えっ!』と目を見開いて
信じられないという視線を
送ると、家康は、手の甲で
口を押さえて『ぷっ』と吹き出した。
『酷い、揶揄われたのですね
もう、びっくりしました。』
『わさびー、貴方のご主人様は
時々、やっぱり意地悪かも
知れませんからお気をつけなさいね』と
言った。
すると、『わさびは、戦さ場で
拾ってきた。怪我が治ったら
山に返すつもり』
よく見るとわさびの後ろ脚には
包帯が巻かれていた。
『そうでしたか。』と言うと
またわさびに向かい
『やっぱり、貴方のご主人様は
とっても優しい方よ、良かったね
拾ってくれたのがご主人様で』
と言うと
『別に、成り行きだから
仕方なくだし』と横を向いた
目元が少し赤くなっていた
気がした。
餌を食べ終えたわさびは
また庭の奥に消えていった。
それからすぐ『あんたも戻るよ』と
また、お姫様抱っこで
部屋までのほんの、数歩の距離を
移動した。
(//// ドクン ドクン ////)
雪姫は自分の心臓の音が
外まで聞こえるような気がして
家康をまともには見られないまま
下ろしてもらうと
『ありがとうございました』と
言って、俯いた。
家康は雪姫の頬を両手で包み
持ち上げると、真っ直ぐ
雪姫を見た。
(/////えっ?//////)
『なんか、あった?どっか調子わるいの?』
と聞かれたが、直ぐに家康の
手を頬から外し、横を向くと
『いいえ、何も問題はございません』と
慌てて言った。『ならいいけど』と
と家康は、特訓に戻って行った。