第2章 〜突然の別れ〜
真剣勝負と言っても、桜奈は
まだ一度も竹千代に勝ったことは
なかった。
『うぅ』と小さく唸る桜奈を
横目に次の瞬間、竹千代がパチっと
碁盤に碁石を置くと、勝負あった。
桜奈は、悔しそうに『くっ』と息を吐き
上目遣いで恨めしそうに
竹千代を下から睨むのだった。
その表情に『ぷっ』と吹き出し
手の甲で口元を押さえ、笑いを
堪える竹千代。
同時にそんな桜奈が堪らなく
可愛く見えてしまう。
思春期に差し掛かっていた
こともあり、天邪鬼な性格は
少しずつ、その片鱗をみせていた。
素直に可愛いなんて、言えるはずもない
竹千代。
桜奈に意地悪と揶揄いを込め
『桜奈、弱すぎ』と一言。
その言葉で、頬をプクッと膨らませ
悔し涙を薄っすら浮かべる桜奈
しかし、負けじと言い返す。
『違うもん、桜奈が
弱いんじゃないもん、竹千代様が
強過ぎるだけだもん。竹千代様の
意地悪!!』とぷいっと横を
向いた。
その仕草がまた堪らなく可愛いく
見える竹千代。
拗ねる桜奈を宥めるように
『じゃ、もう一回勝負しよう』と
言うと、真っ赤な顔で膨れていた
頬は、スッと上がり竹千代の
大好きな、あの花のような
満面の笑みを向け『うん!』と
大きく頷く。
が、何度やっても結果は同じ。
しかし、負けず嫌いの桜奈は
それでも、何度でも挑む。
あの日、転んでも絶対に泣くものか
と必死に耐えていた桜奈
凛とした強さは、変わらずそこに
あった。
そんな桜奈を見るたびに
(早く、大人になりたい!
強い武将になって、桜奈を守り
ずっと、共にいたい)
竹千代はそう思う。
碁盤に穴が開く程見つめながら
真剣に考え込む桜奈。
その姿を愛おしそうに見つめる竹千代。
竹千代の長い指に挟まれた
碁石が、碁盤にパチッと置かれると
やはり、勝負あった。
どんなに桜奈が好きでも
勝ちは譲れない、天邪鬼な竹千代であった。