第5章 トラブル
一方その頃の三蔵と雅。。。
2人の間には重苦しく感じている空気が流れていた。どうしようもなく、鼓動だけが厭にうるさい程静かな空間となってしまっていた。
「…おい。」
「……はい」
「景品がどうとかいっていた意味をさっさと話しやがれ。」
そういう三蔵の声はいつもよりも少し低く、冷たく感じるほどだった。
「私は…さっき話した経緯で大男に因縁つけられて。たしかに私が悪いんだけど…」
「そんなことは聞いてねぇんだよ。何で景品扱いにされてんだ、てめぇは。」
「…ッッそれは…私はお酒も飲めないし…ご飯も人並みくらいしか…食べれないし…」
そう言う雅の目には涙が溜まっていた。泣くまいと思っていたもののどうにもなら無い気持ちが溢れだしてきたのだった。
「…チ」
小さく聞こえる三蔵の舌打ちが胸を刺すように打つ。
「ごめんなさい…本当に…」
「謝ること無いだろうが。馬鹿か、貴様は。」
「だって…」
「…先に言っておくが、貴様の為に明日飲むんじゃねぇ。タダで酒が飲める場がある。それだけだ。」
「さ…三蔵?」
「それともうひとつ。」
そう言うとフッと目を細めると椅子から立ち上がる三蔵は、雅の横まで来るとポン…と頭に手を置いた。
「俺は悟浄みてぇに涙を拭ってなんぞやらねぇから。さっさと泣き止め。落ち着いたら先に寝ろ。」
「さ…三蔵…」
「うるせぇ。煙草が無くなったから買ってくるだけだ。」
そう言いパタンと部屋を出ていった。そんな不器用ながらも優しい三蔵の言葉に雅は、グィっと目を擦り、涙を拭う。
「…な…んで?」
ふと顔をあげた先にはテーブルの上に残るマルボロのパックが置いてあった。開けたばかり、とまではいかなくとも半分はゆうには残っている。
「タバコ…まだあるのに…」
そう呟くとふと頭をよぎる。それは少し前に八戒達から聞いた言葉だった。
『三蔵の懐にこれほど簡単に入り込めるとは。』
『三蔵、本当に嫌だったらはじめから拒むでしょ?』
本意はわからない。だけど……
「三蔵…」
この温かさは雅にとっては最上級の宝物になりつつあった。届いていた布団を床に轢き、雅はそのままゆっくりと潜り込み先に眠りに就いた。