第3章 Tの決意
いつまでもこのままなら、確かに誰も傷つかず、一番幸せな形なのかもしれない。
しかし、ナマエにこのままでいるつもりがないことくらい、カンタも分かっているはずだ。ナマエは一般人であり、普通の社会人である。後輩の家をいずれは出ていこうとするのも、ナマエが普通の感覚を持っているからである。今はそれを止められているが、二年、三年となると、そうもいかなくなるだろう。
そばにいられるだけでいいと思い変化を拒んだ結果があの地獄の三年間なら、トミーは今の関係を少し変えることを選ぶ。
「俺だって、そう思うけど、でも、どうすればいいか、」
「部屋に忍び込んで寝顔しか拝めないむっつりスケベなカンタは黙ってろ。もう酔っ払った勢いで決めた。俺は勝負する。賭けに出る。見てろよ」
カンタにそう言い放つと、先ほどカンタがやっていたようにナマエの寝顔を覗き込む。
それを呆然と見つめていたカンタが、まさか、と言ったと同時に、トミーは静かに寝息を立てるナマエの唇を荒々しく塞いだ。噛みつく勢いだった。
唇が触れていたのはほんの数秒だったが、これまで幾度となく想像してきたナマエの唇の感触を、トミーは忘れることはないだろう。
「ちょ、お前なにしてんの・・・」
「俺はこれからナマエさんの特別になる。その為に、ガンガン攻めるよ。男同士とか、そんなの考えるのバカらしくなるくらい、もうガンガンに。今のは、その決意表明」
「いやいやいや待って!それリスクデカすぎ!ナマエさん怒って出ていかない?」
「だから勝負するって、賭けに出るって言ったろ」
「いや賭けに出すぎだって!」
「羨ましいだろ?悔しかったら、カンタもやってみれば、っ」
突如、後ろに腕を引かれてバランスを崩した。後頭部を大きな手で掴まれる。そのままぐっ、と力を込められた。ソファに寝そべっているナマエの上に乗り上げた体は抱き込まれ、唇はナマエのそれに触れていた。