第3章 報復は我に任せよ、我これに報いん
ここはと或る地下牢。赤紫の、聖職者の纏う長い祭服の男が、灯りと籠を持って降りてきた。
「"罪を贖いし怪物"よ、食事を持ってきました。主の恵みに感謝して、有難く食べなさい。」
男は檻の下にある配膳用の小さな扉を開け、中に籠を差し入れる。ジャラっと鎖を引きずる音を立て、闇の中から襤褸を纏った、痩せ細った小さな子供が現れる。その子供は、差し入れられた籠を前にぶつぶつと祈りを唱えるとガツガツと中に入っていたパンと果物を一気に食した。その様子を司教の男は見詰めている。
「"怪物"よ。近頃我々の教団を襲う不届きな輩がいます。どうすれば良いか分かりますね?」
「…はい、御主人様を、この聖堂を護る。それが私の役目…。」
その子供は金眼銀眼«ヘテロクロミア»の瞳を闇の中で妖しく輝かせる。しかしその目はどこか空虚だった。
顔には生まれつきの痣があった。肌は浅黒く、髪は短く坊主刈りにされていたが白髪だった。その姿は充分な食事を与えられず痩せ細り、目だけがぎょろりとして小鬼«インプ»のようで、酷く不気味な姿だった。
御主人様と呼ばれたその男は、牢扉を開け、その子供を縛める枷を取り払う。男はその子に命じた。
「今宵、我らの聖域であるこの聖堂に神を畏れぬ愚かな者達がやって来ます。お前は主の為にこの聖堂を護るのです。よいな?」
男の命に、その子は黙って頷くと、フラフラと牢を出る。そして、祈るように呟く。
「我が身に服え罪深き悪しき者どもよ、
異能力 荘厳なる驚異 «バルバロス»!」
その言葉とともに、その子は金眼銀眼«ヘテロクロミア»をギロリと輝かせ、醜い獣へとその姿を変じたのだった。