第10章 実家
「そうですよ、お兄さん。それにきょうこさんは、安土城に集まる武将達、皆から可愛がられています。それだけでも大変に凄い事ですよ!」
佐助君が助け舟を出してくれたのに、兄は
「それ、珍しがられてるだけなんじゃ……」
「……」
いやなんで黙るの佐助君っ!!!そこはフォロー入れてよ!!!
「だけどきょうこも歴史に名を残すかも知れないなー」
信玄様が声をかけてきた。
「いえ、それはないですよ」
私が否定すると、
「いや、わからんぞ。信玄君の正妻になると言うことは……」
「ちょっと待って」
父が言いかけた言葉を母が止めた。
皆が母の顔を見る。
「正妻ってことは、他に側室……だっけ?そう言うのも……作るってことなの?」
母の言葉を聞いた信玄様が
「史実を見るとそのように残っていますが、私にはきょうこ一人です。他に妻は要りません」
キッパリと言い切ってくれた。
「だが……それで本当に大丈夫なのかな?」
今度は母や私よりも、少し歴史に詳しい父が聞いた。
「はい。必ず約束いたします。この時代に来て、迎え入れて貰い、私は確信しました。
この家のような温かい人柄の滲み出る家族を持つ。それがきょうことなら必ず叶うと」
そう。戦国時代は……
親子でも兄弟でも、諍いがあれば
殺し合う
それが常だ。
それは信玄様の家族にももちろん当てはまり……
信玄様のこの言葉の意味の深さを、父は理解したようで……
「あぁ。信玄君なら必ず出来るだろう。娘を頼むよ」
父は、母を安心させるように母の手を握りながら、返事をした…………
家族との愛しくて、大切な時間は……
過ぎて行くのが
とても早く感じた。