第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
出掛けたといっても、ほぼ城内のような場所。
供の者も最少人数でやってきた。
さととふたり、東屋に腰を下ろすと、池のほとりに重なり合うようにして咲く菖蒲が見事であった。
「ほんに、美しいですね…」
「…そうだな…」
「………」
何からどう話したらよいものかと考えているとさとが、
「この着物…いかがですか?」
「着物…初めて見るな…良き色じゃな…さとよく似おうておる」
「ふふふ…上様…なにやら今日は、変ですね…」
「そうかな…」
「……」
さとと過ごす時間は優しく、いっそのこと何も知らない振りをして暮らし続けたいとさえ思ってしまう…
しかし……
「翔さまに出会うたのも、花を見ている時でした…あの時は、牡丹でしたけど…」
さとの方から、出逢ったあの日のことを言って来たのだ。
ならば……
「さと…あの日、大師に来たのは、確かお父上の用事だと言っていたな…寺にどんな用があったのだ?
確か、大野屋の菩提寺は別の寺だったが…」
「……なぜ、そのようなことを今になってお聞きになるのですか?」
「ああ…それは…」
感のいいさとは、私に含みがあると警戒したのだろう。
それもそうだ…
では、回りくどい言い方は止めよう。
「さと、そちに聞きたきことがあるのだが…」
さとは黙って私の目を見つめた。
その表情からは、今のさとの気持ちは読み取れなかった。
「さとのお父上は、始めから私のことろに嫁がせたくて、さとをおなごとして育てたのか?」
一瞬、さとの喉が小さくひゅっとなったようだが、さとは大きく目を見開いて私を見つめたまま、何も言わない…
「…さとは、あの日、私が牡丹を見に来ると、知っていたのか?」
その瞬間、見開いたさとの目に、みるみる涙が溢れ出た。