第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「雅紀、頼む」
「……御意。早速そのように手配を…」
「すまぬ」
これで、さとの立場が悪くなるなどということはないだろう。
「上様は、本当に御台様を大切に思われているのですね…」
雅紀は静かな声でそう言った。
「御台は…さとは私の命だ。何にも替えがたい…心の底から愛おしいのだ」
「そのようですね…」
「分かってくれるか?雅紀…」
「御台所様と出会われて、上様はお優しくなりました。それに…」
「それに、何だ?」
「いえ、お可愛らしくなられた、と…」
「私が?可愛いと?」
「はい。御台様の御寝屋に行かれる日は、昼間からそわそわと落ち着かず…
思い出し笑いなどしておられる様は、見ていて微笑ましく…
御一緒に過ごされるときも、御台様を見つめる眼差しがなんとも…」
「雅紀。もうよい…」
自分でも気づかなかったが、そのような事をしていたとは…
顔が熱くなるわ、雅紀のやつめ…
気を付けねば……
『側室を迎える』
『生まれた子をさとの子として…』
さとは、何と言うだろうか?
しかし、これは私の決めたことだ。
再び硯に向かいながら、夕べのさとの涙を思い出していた。
それからひと月の後、側室となるべき娘が江戸城に入った。
雅紀の決めた娘だ。
きっと、良い娘に違いない。
そして、きっといい子を産んでくれる。
それからまた半月後。
御鈴廊下で平伏するおなごたち…
その一番端に座る娘に声をかける。
それも決められていたこと。
くれぐれも間違いのないように、と、雅紀から口を酸っぱくして何度も言われた、
「…そち…面を上げよ…」
ゆっくりと顔を上げた藤色の打掛の娘……
大きな目の美しい娘だ。
「…名を…名を何と申す?」
「…千代と申します…」
「千代か…良い名じゃ」
……………回りの者たちが、息を飲んだ。