第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
その夜、御鈴廊下をとさとの待つ寝所へと向かう。
さとはきっと、今夜の意味を分かっているのだろう。
『かしこまりました』
分かっていながらそう答えたさとは、どんな気持ちで、私を待ってくれているのだろうか?
「翔さま…お待ち申し上げておりました。ささ、こちらへ…」
縁側で簡単な酒宴の用意をして、さとは待っていた。
「珍しいな…そちが酒とは」
「たまには良いではござりませぬか…」
誘われるままにさとの隣に座った。
「おお、これは見事な…」
見れば空には満月が浮かび、池にそれが映り、まるで月がふたつあるようだ。
「はい、翔さまと一緒に見たくて…」
酒を酌み交わしながら、暫し月を愛でる。
他愛もない話をしながらさとと飲む酒はまた格別だ。
「庭に出てみるか?」
「…ええ」
さとを伴い池の上に架かる石橋まで出てきた。
付き添ってきたのは侑李だけ。
しかも遠慮するように離れて見守っている。
今ならば……
「さと」
「はい」
「今夜の寝屋は、いつもと違うが…」
「ええ、そのようですね」
どこか他人事のように答えるさとは、反対側の池を見ていて、その表情が分からない。
「さと」
「…はい」
「こちらを向け」
「…ほんにこのような美しい月は、滅多に…」
「顔を見せてくれ」
肩を掴んで身体をこちらへ向けると、驚くべきことに、さとは泣いていた。
「……」
必死に堪えるその顔が堪らなくて、思わず腕の中に抱き寄せた。