第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「さと、泣くな。なぜ泣く」
「…翔さま…」
初めて見たさとの涙に、狼狽えることしかできない。
「そんなに嫌なら、いつも通り人払いをしよう。いつもと同じに私を温めてくれれば、それで良いのだ…な?」
それでも、さとは首を何度も振って泣くばかり。
「さと、さと…泣くな…泣くなと申すに…」
抱き締めた背中を幾度も撫でながら、さとを宥めることしか出来ない己がもどかしい。
「…侑李」
思わず控えていた侑李に助けを求めると、
「翔さま」
さとはそれを止めるように、顔を上げた。
涙に濡れた瞳に、胸が締め付けられた。
「さと、私はどうしたらいい?
さとに笑うてもらうには、どうすれば…」
「……御側室を、迎えてくださいまし…」
「えっ…?」
「私は、翔さまと夫婦になれて、本当に言葉では言えないほどに幸せにございます。」
それは私とて同じこと。
さとは、涙を拭って静かに続ける。
「幸せで、幸せで…
幸せすぎて、少し欲張りになってしまいました。
もっと早く、翔さまに御側室を、とお願いしなければいけなかったのに…」
「さと…」
「このような男の身で、上様の御台所として迎えていただいただけで…もうそれだけで勿体無いほど光栄なことなのに…」
さとはしっかりとした口調で続けた。
「…翔さまに愛されるのは私だけが良いなどと、思い上がった我儘を…」
「さと、そんなことを申すでない!」
「いえ、私は上様の御子を成すことができませぬ。こうして、大切にしていただけるだけで、感謝しているのです。」
凛とした佇まいでそう言い切ったさとは、神々しいほど、美しかった。