第23章 ご城下らぷそでぃ【S×O】
「……さま?…」
……
「翔様」
「あ…」
和也と良安の下世話な会話から離れ、さとを思っていた私は、二人が私をじっと見ていることに気が付いた。
「なんでもない…」
聞かれてもいないのに先に応えてしまった。
「翔様…」
「な、なんだ」
「お側に来て下される方だといいですね」
「良安…」
さとが、私の側に…
「是非ともこの老いぼれにも、翔様のお幸せを祈らせてくだされ」
「……勝手にすればいい…」
笑う二人に言い返す上手い言葉が見つからず、背を向けた。
しかし、不思議なことに揶揄われても何だかそれが嬉しくて…妙にくすぐったいような…そんな気がした。
今日は、今まで知らなかった、感じたことのなかった、言葉にし難い初めての気持ちを幾つも知った。
なんとも可笑しな一日だった。
夕刻、和也と城に戻ると雅紀が慌てふためき駆け寄ってくる。
「翔さま、ご無事で。お戻りの時刻がいつもより半時ほど遅うございましたので、気を揉んでおりました。もし城下で翔さまの御身に何かありましたら…」
後ろからガミガミと小言を言いながらついてくる雅紀。
「分かった分かった。大義だったな、雅紀…
ありがとう…」
「ふぇっ??」
急に静かになったことを不思議に思い振り返ると、雅紀は廊下の真ん中で間の抜けた顔をして突っ立っていた。
「如何した?」
「………あ…いえ、翔様が、ありがとう…と、そう言われたものですから…」
「……」
俺がいつもと違うとか、ありがとうという言葉に泣きそうになったとか、驚いて息が止まっていたとか…
また興奮気味に捲し立てる雅紀に、少し胸が痛んだ。
私は今まで、雅紀にありがとうの一言さえ言ってなかったのか……と。